昨今の米国株市場は、米中間の関税問題が再燃し、不安定な状況が続いています。トランプ前大統領の敵対的な発言や、中国からの輸入品に対する大幅な追加関税の可能性が示唆され、市場全体が大きく揺れています。
そんな中、市場の冷え込みをよそに突如として脚光を浴び、株価が一時50パーセント以上も急騰した企業があります。それが、レアアース(希土類)関連銘柄の雄、「MPマテリアルズ(ティッカーシンボル:MP)」です。今回は、この「レア」な存在に何が起きているのか、そして投資対象として賢明かどうかを深掘りしていきます。
米国内唯一の垂直統合型サプライチェーンという圧倒的優位性
MPマテリアルズは、ネバダ州ラスベガスに本社を置き、主にネオジム・プラセオジム(NDPR)などのレアアースの採掘・加工を手掛けています。
特筆すべきは、同社がカリフォルニア州のマウンテンパス鉱山を所有・運営する、米国で唯一の商業規模のレアアース鉱山企業である点です。さらに、採掘した鉱石を海外に送ることなく、分離・精製、そして最終製品である磁石の製造まで一貫して行う「垂直統合型」のビジネスモデルを構築しています。
NDPRは、現代の基幹技術に欠かせない強力なネオジム磁石の原料となります。電気自動車(EV)の高性能モーター、風力発電のタービン、ロボット、ドローン、さらにはF-35戦闘機などの防衛装備品に至るまで、極めて広範囲な分野で利用されています。この「米国内完結」のサプライチェーンこそが、現在の地政学的リスクが高まる中で最も重要視されている同社の強みと言えるでしょう。
国防総省が筆頭株主に 異例ずくめの支援パッケージ
MPマテリアルズの株価が急騰した直接的なきっかけは、米国の国防総省(ペンタゴン)との大規模な戦略的パートナーシップ契約でした。これは単なる取引ではなく、アメリカの安全保障戦略と深く結びついた異例の動きです。
国防総省は、この契約に基づいて同社に4億ドルの優先株を取得し、実質的な筆頭株主となる見込みです。支援はこれに留まりません。
- 10年間の最低価格保障: 今後10年間、主力製品であるNDPRに対して1kgあたり110ドルという最低価格を保障します。市場価格がこれを下回った場合、その差額を国防総省が補填するという、事業の安定性を劇的に高める内容です。
- 100%全量買い取り保障: テキサス州に建設予定の新しい磁石製造工場で生産されるネオジム磁石を、今後10年間100パーセント全量買い取ることも約束しています。
資金面でも、国防総省からの4億ドルの出資とは別に、1億5000万ドルの追加融資が予定されており、JPモルガンやゴールドマンサックスからも合計10億ドルの融資枠を確保するなど、盤石の体制を敷いています。
さらに、国防総省の発表から間もなく、Appleもサプライチェーンから中国依存のリスクを減らす目的で、テキサス工場に5億ドルを投資し、専用の磁石ラインを設けることを発表しました。まさに官民一体となり、MPマテリアルズを国策企業としてバックアップする体制が敷かれた形です。
国家の存立に関わる「戦略物資」としてのレアアース
なぜ米国政府は、ここまで一企業に肩入れするのでしょうか。それは、米国が使用するレアアースの約8割を中国からの輸入、または中国企業が関与する形で供給されているという、極端な依存状態にあるからです。
もし米中間の対立が決定的なものになり、中国がレアアースの輸出を戦略的に制限するような事態になれば、最新鋭の戦闘機であるF-35の生産ラインが止まりかねません。国内で推進するEVシフトやグリーンエネルギー政策も頓挫する可能性があります。つまり、レアアースは単なる経済的な問題ではなく、国家の安全保障と経済の両面で致命的な打撃を受けかねない「戦略物資」として位置づけられているのです。
国防総省の動きは、コストが多少かかっても、採掘から最終製品まで一貫して生産できる信頼性の高い国内サプライチェーンを確保したいという、強い危機感の現れと言えるでしょう。
投資判断の光と影 留意すべきリスク要因
この巨大な支援パッケージにより、MPマテリアルズへの投資は大きな魅力を持つに至りました。
ポジティブな面としては、
- 米国内唯一の垂直統合という圧倒的な独自性
- 10年間の価格・全量買い取り保障という政府の強大な後ろ盾による事業の安定性
- EVや防衛といった成長分野との強いつながりなどが挙げられます。
しかし、冷静に検討すべきリスクや懸念材料も少なくありません。
- 株価水準と元々の業績: 契約発表後の株価は既に急騰しており、将来の成長期待を織り込みすぎた割高感が意識されます。また、支援が本格化する前の2023年の業績は赤字であり、元々の収益力には課題がありました。
- 複雑な中国との資本関係: 「脱中国依存」が支援の根拠であるにもかかわらず、中国のレアアース企業が未だに大株主リストに名を連ねているというねじれた構造を抱えています。この資本関係が、今後の地政学的展開次第でリスク要因となる可能性は否定できません。
- 実行リスクと鉱山の寿命: テキサス工場の建設や鉱山施設の拡張といった大規模プロジェクトが計画通りに進むかという実行リスクが伴います。また、マウンテンパス鉱山の推定可採年数が約24年程度という見方もあり、超長期で見た場合の資源枯渇リスクも頭の片隅に入れておく必要があります。
MPマテリアルズは、もはや純粋な民間企業ではなく、電力会社のような公益事業、あるいは国家にとって重要なインフラの一部のような性格を帯びてきています。その投資判断には、光と影の両面を慎重に見極める多角的な視点が必要不可欠と言えるでしょう。
