長年、エンタープライズ向けデータベース市場の巨人として知られてきた「オラクル(Oracle)」が、今、米国株式市場で歴史的な大復活を遂げています。取引終了後の決算発表を受け、株価がわずか1日で36パーセント近くも急騰するという、実に30年以上ぶりの記録的な上昇を記録しました。この劇的な動きは、金融大手のJPモルガンや小売のウォルマートといった巨大企業を抜き去り、オラクルを一気に米国企業時価総額トップ10へと押し戻す結果となりました。
「地味な老舗企業」というかつてのイメージを覆し、この劇的な復活を可能にした背景には、現在のオラクルがもはや単なるデータベースの会社ではないという事実と、「AIブーム」という巨大な時代の潮流があります。
データベースの枠を超えた総合IT企業へ
創業以来、オラクルは企業向けデータベース管理システム「Oracle Database」を事業の核としてきましたが、2000年代以降、M&A(企業の合併・買収)を非常に積極的に繰り返してきました。サン・マイクロシステムズ(Javaやサーバー技術)、ピープルソフト(ERP)、シーベルシステムズ(CRM)といった有名企業を次々と買収し、事業領域を劇的に拡大させています。
特に最近では、クラウドベースのERPに強いネットスイートや、電子カルテシステムで大きなシェアを持つヘルスケアIT大手のサーナーといった大型買収を実施しました。その結果、現在のオラクルは、データベースを基盤としつつ、サーバーやストレージを提供するIaaS(インフラ)、アプリケーション開発環境のPaaS、そしてSaaS(ソフトウェア)まで、クラウドサービスの全領域を手がける巨大な総合IT企業へと変貌を遂げています。
株価急騰を呼んだ「AI」と「将来への期待」
今回の歴史的な株価急騰の最大の原動力は、人工知能(AI)ブームと、それに伴うオラクルのクラウド事業(OCI:Oracle Cloud Infrastructure)への強烈な期待感です。
実は、株価急騰の引き金となった四半期決算発表では、一株当たり利益(EPS)も売上高も市場予想をわずかに下回る結果でした。しかし、市場の投資家たちが注目したのは、目先の数字ではなく、オラクルの将来の成長を示す具体的な材料でした。
1. RPO(予約残高)の爆発的な増加
最も市場に衝撃を与えたのが、RPO(残存履行義務、いわば将来の売上予約残高)の爆発的な増加です。RPOは前の四半期末から3倍以上、前年同期比では359パーセント増という驚異的な伸びを記録しました。これは、この四半期に3つの異なる大口顧客との間で、それぞれが数十億ドル規模に上る巨大なAIインフラ契約を合計4件締結したことが主な要因です。AIモデルの開発・学習に必要な膨大な計算能力を提供するOCIへの需要が、凄まじい勢いで拡大していることを示しています。
2. マルチクラウド戦略の成功
競合であるAmazon(AWS)やMicrosoft(Azure)、Google Cloudといった他社プラットフォーム上で、オラクルが誇る高性能データベースを利用可能にする「マルチクラウド戦略」も大成功を収めています。このマルチクラウド経由でのデータベース利用に関連する売上高は、前年同期比で1500パーセントを超える伸びを記録したと報じられました。競合の土俵の上で自社の強みを販売する賢い戦略が、爆発的な収益拡大につながっているのです。
投資を考える上での光と影
創業者のラリー・エリソン会長兼CTOが、株価急騰により一時的にイーロン・マスク氏を抜いて世界一の富豪となったことも報じられるなど、その影響力の大きさがうかがえます。
今後オラクルへの投資を考える上で、以下の点が注目すべきポイントとなります。
ポジティブな側面
- エンタープライズ向けデータベース市場における揺るぎない基盤と高い利益率。
- AIインフラ需要を捉えたRPOの巨大な伸びと、将来の成長ポテンシャル。
- OCIの成長と、マルチクラウド戦略という強力な武器。
- M&Aを通じて常に新しい成長分野(ヘルスケアなど)を開拓し続けている点。
注意すべき側面(リスク)
- 株価収益率(PER)が約75倍にも達するなど、将来の成長への期待が相当に織り込まれた「割高」な水準にある可能性。
- Amazon、Microsoft、Googleという巨大な先行プレイヤーが存在するクラウド市場での厳しい競争。
- 今回のRPOの伸びが、少数の超大型契約に依存しており、この成長が持続可能なものか、今後の推移を注視する必要があること。
- 大型買収(サーナーなど)に伴う、買収後の事業統合(インテグレーション)リスク。
オラクルは今、AI戦争を繰り広げる巨大テック企業たちに対して、その競争の基盤となる計算インフラを提供する「中立的な武器商人」のような立ち位置を強めています。どの企業が最終的な勝者になるかにかかわらず、インフラ提供者として安定した収益を上げ続けられるか、この賢い戦略の行方が、今後のオラクルの未来を占う上で非常に面白い視点となるでしょう。
