フィンテック界の注目株「Klarna(クラーナ)」とは
今回ご紹介するのは、スウェーデン発のフィンテック企業「クラーナ」です。この名前を聞いて、昨今の金融業界の動きに敏感な方はピンと来たかもしれません。クラーナは、まさにフィンテック界に風穴を開けた注目株として、その動向が常に話題となっています。
クラーナは2005年にスウェーデンのストックホルムで設立されました。創業者の3名、特にCEOのセバスチャン・シーとコースキー氏は、若干23歳で共同創業を果たした人物です。彼らの事業の根底にある思想は、従来のクレジットカードの仕組み、特に高い金利で消費者に負担を強いる点への強い批判でした。既存の金融システムに対するアンチテーゼこそが、クラーナを動かすエンジンになっていると言えるでしょう。
クラーナの武器「BNPL」の仕組みと魅力
クラーナが急成長を遂げた最大の武器、それが「BNPL(Buy Now Pay Later)」、つまり「今すぐ買って、支払いは後で」という後払い決済サービスです。
消費者にとっての最大の魅力は、多くの場合、利息がかからないか、かかっても非常に低い金利であるという点にあります。オンラインで商品を購入する際、すぐに全額を支払う必要がなく、後日一括払い、あるいは数回に分けた分割払いを選択できるため、支払いタイミングの柔軟性が増します。特に、クレジットカードを持つことに抵抗がある、あるいは持てない若い世代にとって、これは非常に便利な選択肢として受け入れられました。
一方、加盟店(お店側)にも大きなメリットがあります。まず、「カゴ落ち」、つまり商品をカートに入れたものの購入せずにサイトを離脱してしまう現象を減らす効果が期待できます。支払いのハードルが下がることで、購入を後押しできるのです。さらに、代金が回収できないリスクをクラーナ側が基本的に負ってくれるため、加盟店は安心して取引ができます。単に決済手段を提供するだけでなく、クラーナのアプリを通じて商品のプロモーションを行うなど、販売促進の支援も行っている点も、加盟店にとって大きな魅力となっています。
急成長の裏側で起きた評価額の「ジェットコースター」
このBNPLの広がりを後押ししたのは、eコマース(ネットショッピング)の爆発的な普及です。特にパンデミックを経て、その流れは加速しました。加えて、若い世代を中心にクレジットカードや「借金」に対する価値観が変化し、より手軽で透明性の高いBNPLが選ばれる傾向が強まったのです。
ヨーロッパでの成功を収めたクラーナは、2015年には巨大市場であるアメリカに進出。メイシーズやウォルマートといった大手小売業者との提携も成功させ、一時はヨーロッパで最も価値のある未上場のテクノロジー企業と呼ばれるまでに評価を高めました。
しかし、ここから劇的な展開を迎えます。2021年、ソフトバンクループなどが主導した資金調達ラウンドでは、クラーナの評価額はピークとなる456億ドルに達しました。フィンテックへの期待感を象徴するような数字です。
ところが、翌2022年になると状況は一変します。世界的なインフレ、金利の急上昇、そしてまだ利益を出せていない成長企業に対する市場の見方が厳しくなり、クラーナの評価額はわずか1年で67億ドルまで急落。約85%も価値が下がるという、まさにジェットコースターのような乱高下を経験しました。この出来事は、フィンテックセクターが外部環境や投資家の市場心理に、いかに左右されやすいかを如実に示す結果となりました。
待望のIPOを経て、競争と規制の波へ
その後、市場環境の不安定さから延期もされましたが、クラーナは最終的に2025年9月、ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を果たしました。資金調達額は約13.7億ドル、公開価格は予想を上回る1株40ドルで、取引初日には株価が一時30%も上昇する場面が見られました。最終的な初日の時価総額は約173億ドルと、ピーク時よりは低いものの、その年のIPO市場で最大規模の一つとなり、クラーナの将来性への強い期待が示されました。
しかし、BNPL市場は競争が非常に激しい状況です。アメリカのアファームをはじめ、ブロック社が買収したアフターペイ、決済大手のPayPalが提供する「Pay in 4」、さらには巨大テック企業のAppleまで「Apple Pay Later」で参入しています。まさに群雄割拠の状態です。
クラーナが抱える課題は、競争だけではありません。重要なのが「収益性」と「規制」の問題です。
かつては黒字経営だったクラーナですが、アメリカ市場への大規模投資などが響き、近年は赤字が続いていました。直近の決算では黒字転換の兆しが見えていますが、激しい競争のなかでいかに利益率を維持・向上できるかが大きな課題です。
また、「規制」も無視できません。BNPLの気軽さが消費者の「借りすぎ」を助長する懸念から、世界的に規制当局の監視が強まっています。アメリカでは、消費者金融保護局(CFPB)がBNPL事業者に対し、クレジットカード会社と同様の消費者保護ルールを適用することを決定するなど、ルールが厳格化する動きが進んでいます。クラーナ側は、延滞率がクレジットカードよりも低い水準であることや、経済状況の変化に応じて融資基準を柔軟に変更できるなど、リスク管理ができていると反論を示しています。
投資家が注目すべきクラーナの将来性
クラーナは、BNPLという一本足打法からの脱却を図っています。銀行免許を取得し、デビットカードの発行や貯蓄口座の提供、さらには有料のサブスクリプションサービス「クラーナプラス」を始めるなど、金融サービス全体に事業を広げる戦略を採っています。これは決済手数料だけでなく、多様な収益源を確保しようとする試みです。
米国株投資に関心のある方にとって、クラーナは「BNPLという大きなトレンドを牽引してきた企業」という魅力がある一方で、「競争の激化」と「規制強化」という二つの大きな逆風にもさらされています。あのジェットコースターのような評価額の変動が示したように、フィンテックの成長企業への投資は、高いリターンが期待できる一方で、非常に高いリスクも伴うことを理解しておく必要があります。
今後、クラーナが持続的に利益を上げられるか、そして厳しくなる規制にうまく対応できるか。この二点が企業価値を左右する最大のポイントとなるでしょう。投資を検討する際は、トレンドに乗る魅力と、その裏にある競争、規制、収益性のリスクを慎重に天秤にかけることが重要になります。
