こんにちは。今回は、一時期は「ちょっと元気がないかな」という印象もありましたが、ここへ来て力強い回復を見せている「テスラ」株に焦点を当ててみたいと思います。電気自動車(EV)メーカーの枠を超え、AI・ロボティクス企業への進化を目指すテスラ。その株価がなぜ今、これほどまでに注目され、上昇しているのでしょうか。その背景にある「5つの追い風」と、投資を考える上で見逃せないリスク要因について、深掘りしてまいります。
驚異的な回復力を見せるテスラ株の現状
まず、足元の株価の動きを見てみましょう。今回の収録が行われた2025年9月、テスラ株はなんと月に入ってから先週末までに約19%も上昇するという、目覚ましい回復力を見せています。
年初は、いわゆる「マグニフィセント・セブン」の中でも出遅れているとされていましたが、今年の3月には年初来安値の約222ドルまで下落した局面から着実に回復。昨年末の終値が約404ドルだったのに対し、先週末時点では約396ドル弱と、年初来でほぼトントンという水準まで戻してきています。この力強い戻りの背景には、一体何があるのでしょうか。
株価を押し上げる「5つの強力な追い風」
テスラ株の回復の要因は、大きく分けて「市場全体の環境要因」と「テスラおよびイーロン・マスクCEO固有の要因」の2つがあります。
追い風1:市場全体のムードを牽引する「利下げ期待」
一つ目は、市場全体の期待感です。収録日である9月を控え、市場では実に6回合ぶりに利下げが再開されるのではないかという見方が非常に強まっています。具体的には、0.25%の利下げが行われる確率が95%以上と、ほぼ確実視されている状況です。
一般的に、金利が下がると、将来の収益に対する期待が高い企業の株価は評価されやすくなります。テスラのようなハイテクグロース株にとって、この市場全体の利下げ期待は、株価を押し上げる大きな力となっているのです。
追い風2:売り込まれた反動「テクニカルな反発」
二つ目は、株価チャート的な動き、つまりテクニカル要因です。3月の安値以降、株価が低迷していたため、「さすがに売られすぎだろう」と見た投資家の買い戻しや、ここからの反発を期待した新規の買いが入りやすい状況にあります。
また、株価が上昇することで、空売り(株価下落を見込んで売っていた)投資家が損失を抑えるために買い戻しを迫られる、いわゆる「ショートスクイーズ」への期待感も、一部で株価を押し上げる要因になっていると指摘されています。
追い風3:未来への道筋「自動運転規制の緩和」
ここからはテスラ固有の要因です。三つ目は、テスラの将来戦略にとって極めて重要な「自動運転に関する規制緩和の動き」です。
トランプ政権は、自動運転車の導入を後押しするため、安全基準の規制緩和を進めています。特に注目すべきは、ハンドルやペダルといった手動の操作装置がない「完全自動運転車」の導入をしやすくするという方針です。今までは、これらの装置がない車を走らせるには、個別に適用除外を申請する必要があり、数年かかることもありました。
しかし、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)はこれを簡素化し、数カ月で判断できるようにする方針です。これは、テスラが将来の柱として目指す、ハンドルもペダルもない「ロボタクシー(サイバーキャブ)」構想の実現に向けた大きなハードルが一つ取り除かれる可能性を意味しています。規制緩和によって、テスラのAIやロボティクス戦略の確信部分に光が当たり、市場はこのニュースを非常にポジティブに受け止めました。
追い風4:強烈な宣言「イーロン・マスクCEOへの巨額報酬パッケージ」
四つ目は、本当に破格のニュースとして世界中を驚かせた、イーロン・マスクCEOへの巨額報酬パッケージです。
テスラの取締役会は、もし全て達成されれば日本円で約147兆円相当にもなり得るという新たな報酬パッケージを提案し、11月の株主総会で承認を求めると発表しました。これは単なるボーナスではなく、マスクCEOに今後10年間で極めて野心的な目標達成を求めるインセンティブプランです。
その目標は、テスラの企業価値を最終的に8.5兆ドル(現在のNvidiaのさらに2倍)に引き上げること、累計車両販売1,200万台、人型ロボット「オプティマス」を100万体販売、ロボタクシーを100万台運行など、まさにSFの世界を実現するような内容です。取締役会は、マスク氏をテスラの経営に再び強く集中させ、その意欲を最大限に引き出すためだと説明しています。このプランは、「テスラはもはや単なるEVメーカーではない。AIとロボティクスの会社として、これだけの飛躍を目指すんだ」という、市場への強烈な宣言として受け取られています。
追い風5:揺るぎない自信「マスクCEO自身の大量自社株買い」
五つ目は、その自信を裏付ける行動です。9月12日、イーロン・マスクCEOがテスラ株を約257万株、金額にして約1,470億円相当を購入したことが明らかになりました。彼にとって過去最大規模の公開市場での自社株買いです。
これは、先の報酬プランと同じく、CEO自身がテスラの未来、特にAIとロボティクスへのシフトに対して揺るぎない自信を持っていることの現れとして、市場に強く受け止められました。戦略を強調するこのタイミングでの大量購入は、投資家の期待感をさらに高める効果を生んでいます。
壮大なビジョンの裏に潜む「ハイリスク・ハイリターン」の側面
これら5つの要因は、テスラ株にとって非常に強力な追い風であり、将来への期待感を高めるものです。もし、オプティマスやサイバーキャブといった戦略が本当に成功すれば、株価は今の水準では収まらない可能性を秘めていると言えます。
しかし、光があれば影もあります。投資を考える上で、リスク要因も冷静に見ておく必要があります。
まず、アナリストの評価は割れています。目標株価の平均値を見ると、現在の株価を大きく下回っているケースも多く、専門家の間でもまだ評価が定まっていない状況です。
また、本業であるEV事業の競争環境は厳しくなっており、EV市場の競争激化や需要の伸び悩み、アメリカでのシェア低下といった懸念材料も存在します。従来のEV事業だけで高い成長を続けるのは、難しくなっているかもしれません。
さらに、巨額報酬プランはマスク氏を繋ぎ止める効果があるかもしれませんが、過去の報酬プランが裁判で無効になった法的なリスクも残っています。そして何より、企業価値8.5兆ドルやロボタクシー100万台といった報酬プランの達成条件は、既存の産業構造を破壊するレベルのイノベーションが前提です。計画通りに進まなかった場合の実行リスクは極めて高いと言わざるを得ません。
まとめ:冷静かつ深く理解した上での投資判断を
テスラ株は今、マクロ環境の改善期待、株価の底堅い反発、そして何よりも経営と取締役会が示す「AI・ロボティクス企業としてとてつもない成長を遂げる」という強烈な意思という、複合的な要因で上昇しています。
しかし、壮大なビジョンの裏には、それが実現しなかった場合のハイリスクな側面も存在します。投資を考える上では、今回ご紹介した5つの追い風が示すポジティブな側面と、それに伴うリスク要因を冷静に、そして深く理解した上で、あなた自身の投資判断につなげていくことが重要になります。
テスラがAI、ロボティクス、自動運転といった新たな領域でどんな未来を描き、それを実現していくのか。引き続き、その動向から目が離せませんね。
