みなさまこんにちは。今回は、米国株投資を取り巻く環境に非常に大きな影響を与えかねない、緊急性の高いニュースについて深掘りしてまいります。
中国当局がアメリカの半導体大手「NVIDIA」に対し、独占禁止法違反の疑いで調査を開始したとの速報が入りました。これは単なる一企業の不祥事にとどまらず、激化する米中の技術覇権争いという大きな流れの中で捉えるべき重要な動きです。
突如浮上した独禁法調査と莫大な罰金リスク
今回、中国の市場ルールを管理する国家市場監督管理総局(SAMR)が調査対象としているのは、NVIDIAが2020年に行ったイスラエルのネットワーク機器会社メラノックステクノロジーズの買収案件です。
当時、中国当局はこの買収を承認しましたが、その際に「中国企業を不当に扱わないこと」や「製品の中国市場への継続的な供給」など、いくつかの条件をNVIDIAに課していました。当局は、NVIDIAがこれらの条件を破った疑いがあるとして、初歩的な調査結果を発表しました。
もし最終的に独占禁止法違反が認定された場合、その影響は甚大です。中国の独禁法に基づき、違反企業には前年度の中国内売上高の1%から最大10%に相当する制裁金が課される可能性があります。
NVIDIAにとって、中国本土と香港を合わせた売上高は約170億ドル(全体の約13%)という巨大な規模です。仮に10%の罰金が課されれば、その額は17億ドル(日本円にして天文学的な数字)に上り、NVIDIAの収益に直接的な打撃を与えることは避けられません。市場では、この不確実性の高まり自体が株価の重しとなる可能性が意識され始めています。
米中の規制応酬とNVIDIAの苦闘
今回の中国当局の動きは、ここ数年続く米中の先端半導体を巡る複雑な駆け引きの中で起きました。
米国が中国の軍事力強化を防ぐため、先端AI半導体の輸出規制を強化する動きに対し、NVIDIAは規制の網をくぐり抜けるため、性能をわざと落とした中国市場向けチップ(H800、H20など)を開発し、ビジネスの継続を図ってきました。
しかし、米国政府はその後も規制をさらに厳格化し、NVIDIAが苦労して開発したH20なども規制対象に追加し、一時的に出荷停止を命じる事態に発展しました。さらに異例だったのは、米国政府がH20などの輸出許可を出す代わりに、半導体メーカーに対し、中国市場向け売上の15%を政府に納めるよう要求したことです。安全保障が取引の道具と化しているようにも見えるこの措置に対し、当然ながら中国側は強く反発しました。
これに対し、中国側はNVIDIAのH20チップに外部からの不正アクセスを許す「バックドア」が仕掛けられている可能性があると指摘するなど、応酬が続いています。NVIDIAは、こうした規制の網をかいくぐりながら巨大な中国市場を維持しようと、最新のブラックウェル・アーキテクチャーに基づきつつ、規制に引っかからないレベルに性能を抑えた新たなチップの開発を進めている状況です。
中国で加速する「脱NVIDIA」の技術自立
こうした米国の規制とNVIDIAの対応の応酬が続く中、中国は国を挙げて「脱アメリカ技術依存」、つまり技術自立の道を急いでいます。
中国のスタートアップがNVIDIA製の性能を抑えたチップを用い、ものすごく低コストで高性能なAIモデルを開発した「DeepSeekショック」は、高性能AI開発には莫大な計算資源が必要という従来の常識を覆しかねないとして、市場を驚かせました。
さらに具体的な「脱NVIDIA」の動きも加速しています。アリババをはじめとする巨大テック企業は、NVIDIAチップの代替を狙った独自のAIチップ開発を進めており、その製造を台湾のTSMCではなく、中国国内の工場で行っているとの報道も出ています。また、中国国内の独自チップメーカーの中には、売上が前年同期比で43倍という驚異的な伸びを見せている企業も存在します。
これらは、もはやNVIDIAの技術に頼らない、中国独自のAIエコシステムを構築していくという、中国側の明確な意思表示と受け取ることが可能です。
投資家が長期的に注視すべきこと
今回の中国当局による独占禁止法調査は、NVIDIAの中国でのビジネスに対する不透明感を一段と高めました。これは、短期的な株価の変動要因となるだけでなく、より長期的な視点で投資家が注視すべき大きな流れを示しています。
米中の技術覇権争いは、単なる企業間の競争や国家の対立を超え、世界の技術エコシステムを地域ごとに分断する「デカップリング」を決定的に加速させる可能性を秘めています。今後、もし中国がAI半導体の分野で技術的な自立を達成すれば、NVIDIAをはじめとする米国企業の中国市場でのシェアは低下していくかもしれません。
投資家の皆様は、今回の独禁法調査の行方だけでなく、米中両政府の追加的な規制や、アリババ、ファーウェイなどの中国企業が推し進める技術革新のスピードを、地政学リスクという観点から注意深く、そして長期的な視点で見ていく必要がありそうです。
