ChatGPTを生み出し、今や世界で最も熱い視線を集める起業家の一人、「サム・アルトマン(Sam Altman)」。彼の動向は、単なる一企業のニュースに留まらず、世界のテクノロジー業界、ひいては株式市場全体の未来を左右しかねません。
しかし、華々しい功績の裏側にある彼の人物像や、AIに対する深遠な哲学については、意外とベールに包まれたままではないでしょうか。また、最近発売された「自伝」もベストセラーランキングに入るなど話題になっています。
今回は、弱冠39歳(2024年時点)でAIの方向性を握る彼の「伝説」を深掘りし、その成功と波乱に満ちた人生、そして彼が思い描く未来図をご紹介します。
スタンフォード中退からY Combinator社長へ、若き異端児の軌跡
アルトマン氏は1985年生まれ。8歳でMacを手に入れプログラミングを始めたという生粋の「神童」エピソードを持ちます。名門スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学びますが、あのビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグのように19歳で中退し、起業の道を選びます。
最初の会社は、携帯電話で友人の現在地を共有するサービス「Loopt」。時代を先取りしすぎたのか、はたまたiPhoneの登場という荒波に乗り切れなかったのか、最終的には調達額を下回る「ダウンラウンド」での売却となり、最初の挑戦は必ずしも大成功とは言えませんでした。
しかし、彼の真価はここから発揮されます。Looptでシリコンバレーの登竜門「Y Combinator(YC)」の第1期生となったアルトマン氏は、その卓越した人たらし力と影響力を武器に、ストライプのようなユニコーン企業へのエンジェル投資や、ベンチャーキャピタル設立などで精力的に活動を続けます。そして28歳という異例の若さで、YCの第2代社長に抜擢されるのです。
イーロン・マスクとの決裂、そしてMicrosoftとの運命的な出会い
YC社長時代、アルトマン氏は後の運命を共にする人物たちと出会います。その一人、イーロン・マスク氏と意気投合し、Googleに対抗し人類にとって安全な汎用人工知能(AGI)の開発を目指す「非営利の研究組織」として、2015年にOpenAIを共同設立しました。
当初、目標が壮大すぎて研究の方向性が定まらなかったり、資金繰りに苦労したりした時期もありました。そして、AGIの安全性や研究の進め方を巡る方向性の違いから、2018年にはマスク氏がOpenAIを去るという決断に至ります。
非営利のままでは巨額の研究開発費を賄うことができないという現実から、OpenAIは2019年に利益に上限を設けた営利企業「AI LLP」を傘下に設立するという大きな転換点を迎えます。ここに目を付けたのが、当時AI開発で遅れをとっていたMicrosoftでした。
Microsoftは巨額の出資に加え、強力なクラウドインフラを提供。一方のOpenAIは、Microsoftの製品に最先端技術を組み込む独占的な権利に近しいものを与えることで、両者は強力な「Win-Win」の関係を構築しました。この提携は、その後のMicrosoft株を大きく上昇させ、AI競争の構図を一変させることになります。
そして、その成果こそが2022年11月30日に世界を席巻した「ChatGPT」の登場です。わずか2ヶ月で月間アクティブユーザー1億人を突破し、社会現象となりました。
激震の解任騒動と電撃復帰、そしてプライベートな顔
しかし、成功の絶頂にあった2023年11月、OpenAIの取締役会がアルトマンCEOの電撃的な解任を発表するという、世界を揺るがす騒動が勃発します。表向きの理由は「コミュニケーションにおける率直さの欠如」とされましたが、背景にはAIの「安全性」と「商業化のスピード」を巡る、アルトマン氏と一部の取締役会の間で深刻な対立があったとされています。
開発スピードを優先したいアルトマン氏に対し、AIのリスクを重く見て慎重な開発を求める勢力が対立したのです。
この騒動はOpenAIが持つ「非営利の使命」と「営利の拡大」という構造的な矛盾を露呈させましたが、結末は劇的なものでした。社員の9割以上がアルトマン氏の復帰を求めて署名し、最大のパートナーであるMicrosoftのCEOまでもがアルトマン氏の受け入れを発表。巨大な圧力にさらされた結果、わずか5日後にアルトマン氏はCEOに電撃復帰を果たし、騒動を主導した取締役会メンバーは退任することとなりました。この一連の流れは、AI開発のガバナンスの難しさと、Microsoftの計り知れない影響力を改めて浮き彫りにしました。
激動の日々を送るアルトマン氏ですが、プライベートでは2024年1月に長年のパートナーであるオリバー・マルヘリンさんと同性婚をされました。また、彼の趣味はユニークで、スポーツカーの運転や飛行機の操縦免許を持つ一方で、世界の週末に備える「プレッピング(生存主義)」を実践していることでも知られています。銃、金塊、抗生物質、ガスマスクを備蓄し、有事にはプライベートジェットで安全な場所に逃れられるよう準備しているといいます。AIのリーダーが世界の終わりをリアルに想定しているという事実は、彼がAIの潜在的なリスクを本気で考えていることの表れなのかもしれません。
AIが変える未来のインフラを構築する壮大なビジョン
アルトマン氏の投資ポートフォリオを見ると、OpenAIの活動が単なるビジネスではないことがわかります。彼は核融合エネルギーの「ヘリオン・エナジー」や、長寿研究の「レトロバイオサイエンス」、そして暗号通貨プロジェクトの「ワールドコイン」など、未来のインフラに関わる多様な分野に投資しています。
特にワールドコインは、虹彩認証で人間であることを証明するデジタルIDを発行し、将来的にはAIがもたらす富を元手にした「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」を配るという壮大な構想を持っています。これは、AIによって人間の仕事が奪われる可能性を見据え、富の再分配システムを構築しようという、彼ならではの取り組みです。
彼がAIを通じて最終的に目指しているのは、AIが**「国、個人にとって最高のパーソナルOS(オペレーティングシステム)」**となる世界です。AIが私たちのあらゆる情報を記憶し、先回りして最適な情報を提供したり、タスクをこなしたりすることで、人間の知的能力や生産性は飛躍的に向上すると考えています。
そして究極的には、AIが生み出す圧倒的な富によって、人々は生活のための労働から解放され、より創造的な活動や、本当にやりたいことに時間を使えるようになる未来を描いています。
アルトマン氏が提示する未来は、希望に満ちている一方で、その危険性もはらんでいます。彼自身、AIが悪用されることによるサイバー攻撃や偽情報の拡散、さらには制御不能なエージェントAIの登場といったリスクを真剣に懸念し、OpenAIでは厳しい安全性評価を実施しています。
アクセルとブレーキを両方踏みながら、人類の未来を押し進めるサム・アルトマン氏。彼が描き、実践するAI主導の大変革の行方は、私たち一人ひとりの未来に直結しています。彼の動向から、今後も目が離せそうにありません。

