Meta、ついにメタバースから撤退か?「予算30%削減」報道で株価急騰の皮肉

こんにちは。今回は、巨大テック企業「Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)」にまつわる、考えさせられるニュースを深掘りしていきたいと思います。

Metaといえば、良くも悪くも常に話題の中心にいる企業です。2021年に「Facebook」という誰もが知る名前を捨て、「メタバースこそが次のフロンティアだ」と高らかに宣言して社名変更までしたことは、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。

そんなMetaから、「メタバース事業の予算を大幅に削減する」という噂が飛び込んできました。通常であれば事業縮小というネガティブなニュースですが、市場の反応は全く逆でした。株価が上昇したのです。

企業の壮大なビジョンと、投資家の冷徹な現実主義がぶつかり合った今回の出来事。一体何が起きているのか、その背景と市場の反応、そしてMetaの次なる一手について詳しく解説していきます。

衝撃の報道:メタバース部門、予算30%削減へ

事の発端は、2025年12月4日にブルームバーグが報じたある記事でした。この報道が市場に大きな波紋を広げました。

その内容とは、「Metaがメタバース関連部門の2026年度予算を、最大で30%削減することを検討している」というものです。30%という数字は単なる経費削減のレベルを超えており、事業の戦略的な見直しと言っていい規模です。

削減対象には、同社が注力してきた仮想空間サービス「Meta Horizon Worlds」や、我々にも馴染み深いVRヘッドセット「Quest」を手掛けるハードウェア部門も含まれているとのこと。さらに、早ければ来年1月にも人員削減、つまりレイオフが行われる可能性まで示唆されています。

これまでのMetaの姿勢を考えると、これは180度の方向転換に見えます。特に注目すべきは、その削減幅の大きさです。マーク・ザッカーバーグCEOは元々、全社的に10%程度の経費削減を求めていたとされています。しかし、メタバース部門だけがその3倍にあたる30%もの削減を求められたのです。これは明らかに、メタバース事業が社内で特別な厳しい評価の対象になったことを示しています。

なぜ今、メタバース縮小なのか

なぜ、これほどまでにメタバース部門が集中砲火を浴びることになったのでしょうか。

報道によれば、背景には「メタバース市場の競争が想定ほど激化していない」という見方があるようです。Metaとしては、巨額の資金を先行投資することでライバルを引き離し、市場を独占する戦略を描いていました。しかし、蓋を開けてみれば、そのレースに参加してくる競合他社が思ったよりも少なかったのです。

全力でスタートダッシュを切ったものの、周りを見渡せば誰もスタートラインに並んでいなかった。そんな「肩透かし」を食らったような状態だったのかもしれません。

「事業縮小」で株価が急騰した理由

ここからが、今回の話の最も興味深い点です。事業縮小という、普通に考えれば将来性への懸念から株価が下がるはずのニュースが出たにもかかわらず、Metaの株価は一時5%以上も急騰しました。

市場はまるで、「よくぞ決断してくれた」と拍手喝采を送っているかのようです。この反応こそが、ウォール街の本音を明確に示しています。

多くの投資家にとって、Metaのメタバース事業は「未来を切り拓く輝かしい投資」ではなく、「利益を食いつぶすだけの厄介なお荷物」と見なされていた可能性が高いのです。ザッカーバーグCEOの壮大な夢にいつまで付き合わされるのか、という不満が長年くすぶっていたわけです。

今回の予算削減報道は、投資家たちにとって「ようやく経営陣に現実が見えてきた」「非現実的な夢から足を洗い、地に足のついた事業に集中してくれるかもしれない」という期待感に直結しました。その安堵と期待が、株価を押し上げる強力な原動力となったのです。

700億ドルという天文学的な赤字損失

投資家たちがこれほどまでに安堵した背景には、メタバース事業が生み出してきた凄まじい赤字額があります。

数字を見ると、その惨状は明らかです。メタバースを担当する「Reality Labs」部門は、2020年後半から現在までの累計で、なんと700億ドル(約10兆円以上)もの損失を出しています。いくつかの国の国家予算にも匹敵するような金額を注ぎ込みながら、それに見合うリターンが得られていないのが現状です。

直近の四半期だけでも44億ドルの損失を計上しており、稼ぎ頭であるSNS事業の利益を、メタバース事業が猛烈な勢いで食いつぶすという構造が定着してしまっていました。

もちろん、AmazonのAWSのように、当初は周りから理解されなかった長期的投資が後に大成功する例もあります。ザッカーバーグCEOもそのような信念を持っていたはずです。2023年の決算説明会でも「メタバースへの注力から遠ざかっているという説は正確ではない」と撤退を否定していました。

しかし、CEOが信じる10年、20年先の未来と、四半期ごとの決算を厳しく評価する市場との間には、埋めがたいギャップが存在していました。今回のニュースは、そのギャップがついに限界に達し、現実路線へと舵を切らざるを得なくなった瞬間とも言えるでしょう。

「Meta」への社名変更とは何だったのか

ここで改めて、2021年10月の社名変更を振り返ってみましょう。世界最大のSNS企業が、その代名詞とも言える「Facebook」という名前を捨てるというのは、当時本当に衝撃的なニュースでした。

ザッカーバーグCEOは当時、「メタバースはソーシャルネットワーキングが始まった頃のような、次のフロンティアだ」と語り、事業の軸足をSNSからVRやARを融合させた仮想空間の構築へと完全に移す姿勢を見せました。決算報告の形式を変え、メタバース部門の収支を個別に開示するようにしたのも、その本気度を示すためでした。

しかし、この社名変更にはもう一つ別の側面があったと言われています。当時のFacebookは、個人情報問題や企業倫理への批判などでブランドイメージが大きく傷ついていました。社名変更には、そうした過去の負のイメージを払拭し、未来を創造するクリーンなテクノロジー企業として再出発する「ブランド再生」の狙いもあったのです。

未来への投資と過去との決別。その両方を「Meta」という新しい名前に託したわけですが、皮肉にもその社運を賭けたフロンティアが、投資家たちのため息を誘う最大の原因となってしまいました。

Metaの次なる一手は「AI」

では、メタバースへの投資を縮小し、浮いた巨額の資金や人材はどこへ向かうのでしょうか。その方向性はすでに明確です。

Metaの戦略の重心は、ここ1、2年で急速に「AI(人工知能)」へとシフトしています。

ザッカーバーグCEOが公の場でメタバースについて語る時間は目に見えて減り、代わりにAIの可能性や自社の取り組みについて話すことが圧倒的に増えました。彼はもはや、自身を「SNS企業のリーダー」ではなく、「AI企業のリーダー」として再定義しようとしているように見えます。

具体的には、以下の2つの軸に注力しています。

  1. 大規模言語モデル(LLM)の開発ChatGPTなどを支える基盤技術です。Metaはオープンソースの「Llama(ラマ)」シリーズを開発し、OpenAIやGoogleと覇権を争っています。
  2. AI搭載デバイスの開発Ray-Banと共同開発したスマートグラスのように、AIを日常生活に溶け込ませるデバイスの開発に力を入れています。これは、メタバースのVRヘッドセットという「閉じた世界」から、現実世界を拡張する方向へとハードウェアの思想が変化していることを示しています。

会社側は表向き「AIとメタバースは密接に関連している」と説明していますが、現在の優先順位がAIにあることは誰の目にも明らかです。メタバース事業での巨額赤字という苦い経験を経て、より現実的で、かつ今の市場が熱狂しているAI分野へと大きく舵を切ったと言えるでしょう。

夢から現実へ

今回のニュースは、一人のカリスマ経営者が描くビジョンと、市場という巨大な評価システムとの間の緊張関係を浮き彫りにしました。

企業の戦略転換がこれほど如実に市場心理を映し出すケースも珍しいです。投資家たちは、Metaが「夢」を追うことをやめ、「現実」の利益を追求し始めたことを好感しました。

最後に、一つ面白い問いかけをしてみたいと思います。

元々Facebookだった社名をMetaに変えた同社ですが、もし今回の報道が示すように本当にメタバースから軸足を移すのであれば、また新しい社名に変える必要が出てくるかもしれません。

もしそうなった場合、皆さんならどんな名前をつけますか。

AIという言葉が入るのか、それとも原点回帰でコミュニケーションを象徴する名前に戻るのか。

企業のビジョンと市場の評価、そしてテクノロジーの進化の速さを改めて感じさせる、非常に興味深い転換点についての解説でした。今後のMetaの動きからも目が離せません。


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