こんにちは。今回は、米国株投資家の間で大きな話題となっている「オラクル(Oracle)」の最新決算について深掘りしていきたいと思います。
AIブームの勝ち組として絶好調に見えたオラクルですが、今回の決算発表を受けて株価は急落しました。一体、水面下で何が起きていたのでしょうか。単なる一時的な調整なのか、それともAIバブル崩壊の引き金となるのか。動画で解説されていた衝撃的な事実を、順を追って整理していきます。
AIブームの「光」と、債券市場が見ていた「影」
まず、時計の針を少し戻しましょう。前回の第1四半期決算では、オラクルはまさに「光」の中にいました。将来の売上を約束する「RPO(残存履行義務)」がAI関連の大型契約で3倍以上に膨れ上がり、株価は一時43%も上昇。創業者のラリー・エリソン氏が一時的に世界一の富豪になるなど、まさにサクセスストーリーの只中にあったのです。
しかし、株式市場が熱狂する裏で、債券市場(プロの世界)は全く別の「影」を見ていました。
ここで注目すべきキーワードが「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」です。これは簡単に言えば、企業の倒産に備えるための保険のようなものです。実はオラクルのCDS保険料(スプレッド)は、2009年の金融危機以来、約16年ぶりの高い水準にまで急騰していました。
株式市場が「AIの勝ち組だ」と囃し立てる一方で、債券市場のプロたちは「この会社は過去16年で最も倒産リスクが高い」と判断し、高い保険料を払って警戒していたのです。この認識のズレこそが、今回の急落劇の伏線でした。
壮大すぎる「スターゲート計画」と借金のリスク
なぜ債券市場はこれほどまでに警戒していたのでしょうか。その理由は、オラクルが進めるあまりにも壮大すぎるAI投資計画、通称「スターゲート計画」にあります。
オープンAIやソフトバンクループと組んで進めるこのプロジェクトの総額は、なんと5,000億ドル。日本円にして約77兆円という、一企業の投資枠を超え、小国の国家予算レベルに達する規模です。当然、自己資金では賄いきれず、そのほとんどを借金で調達することになります。
ある試算では、2028年度には純負債額が現在の3倍近い2,900億ドル(約45兆円)に達する可能性すらあると言われています。「果たしてこの天文学的な借金を返せるほど、AI事業は利益を生むのか」。債券市場は、未来の夢よりも足元の返済能力をシビアに見積もっていたのです。
さらに不穏な動きもありました。パートナーであるはずのソフトバンクループが、この巨大プロジェクトを前にオラクル株を全て売却していたのです。「プロジェクトの成功を信じているなら株を持ち続けるはず」という常識に照らし合わせれば、これは極めて不可解であり、ネガティブな兆候と捉えられました。
「がっかり決算」の全貌:見せかけの利益と止まらない支出
そのような懸念の中で発表された第2四半期決算は、市場の不安を現実のものとする内容でした。一言で言えば「懸念が現実になった失望決算」です。
まず、全体の売上高は160.6億ドルで市場予想に届きませんでした。最も期待されていたクラウド事業の売上も予想を下回っています。
一見すると、一株当たりの利益(EPS)は市場予想を大きく上回っているように見えます。しかし、これには「化粧」が施されていました。実は、傘下の半導体企業アンペア社の株を売却し、27億ドルもの一時的な利益を計上していたのです。もしこの資産の切り売りがなければ、利益面でも市場予想を下回っていた可能性が高いという厳しい現実がありました。
そして投資家を最も震撼させたのが「支出」の爆発的な増加です。
この3ヶ月間の設備投資額は120億ドルに達し、市場予想を50億ドル近くも上回りました。さらに会社側は、2026年度通期の設備投資計画を従来の350億ドルから500億ドル(約7.8兆円)へと、一気に4割も引き上げると発表したのです。稼ぐ力は予想を下回っているのに、出ていくお金だけが予想を遥かに超えて増え続けている。まるで「穴の開いたバケツに水を注ぎ込んでいる」ような状態と言えます。
「オープンAIの一本足打法」の危うさ
将来の売上の指標となるRPO(受注残)についても、中身を見ると新たなリスクが浮き彫りになります。
5,230億ドルという巨額のRPOのうち、なんと半分以上の3,000億ドルが「オープンAI」一社との単独契約によるものです。しかも、この売上が実際に計上され始めるのは早くても2027年以降とのこと。
今のAI業界はドッグイヤーとも言える速さで変化しています。2年後にオープンAIが現在と同じ圧倒的なポジションにいる保証はどこにもありません。もし彼らの勢いが衰えれば、この3,000億ドルという数字は「絵に描いた餅」になりかねないのです。一社の顧客、それも変化の激しい業界の顧客に依存しすぎている点は、極めて大きなリスク要因として認識されました。
AIバブル崩壊の引き金となるか
この決算発表を受け、オラクル株は一時12%近く急落しました。しかし、問題はオラクル一社にとどまりません。エヌビディアやマイクロンといった他のAI関連銘柄も連れ安となり、ソフトバンクループの株価も急落しました。
専門家の一部からは、これが「AIバブル崩壊の引き金」になるのではないかと懸念する声も上がっています。
現在のAI業界は、巨大テック企業間でお金と需要が循環する「共存関係」で成り立っています。エヌビディアがスタートアップに投資し、そのスタートアップがオラクルのクラウドを借り、オラクルがエヌビディアからGPUを買う。このようにお互いを支え合う構造だからこそ、オラクルのような巨大な歯車が一つ狂うと、その影響がドミノ倒しのように全体へ波及する危険性があるのです。
私たち個人投資家が学ぶべきこと
今回のオラクル・ショックから、私たちは何を学ぶべきでしょうか。動画では以下の3つの教訓が挙げられていました。
一つ目は「裏側を見ること」です。株価や受注残といった華やかな表面的な数字だけでなく、その裏で膨らんでいる負債や財務の健全性に目を向ける重要性が浮き彫りになりました。
二つ目は「債券市場の声に耳を傾けること」です。株式市場が楽観に沸いている時でも、クレジット市場(CDSなど)は冷静にリスクを評価しています。両者の評価に乖離があるときは、より慎重なクレジット市場のシグナルを信じることで、危機をいち早く察知できる可能性があります。
三つ目は「熱狂そのものを警戒すること」です。誰もが「絶対に儲かる」と信じている時こそ、実は最も危険なタイミングかもしれません。AIという技術が素晴らしいものであっても、関連企業の株価が無限に上がり続けるわけではありません。
昨日のヒーローが明日のリスクになる。AIという一つのテーマに資産を集中させることの怖さを、今回の件は改めて教えてくれました。壮大なビジョンの裏には常に巨大なリスクが潜んでいることを忘れず、光と影の両方を見極める冷静な視点を持ち続けたいものです。
