2025年12月、日本の金融市場、そして世界を驚かせる大きなニュースが飛び込んできました。日銀がついに政策金利を0.75パーセントに引き上げることを決定したのです。これは1995年以来、約30年ぶりの高水準であり、日本が本格的に「金利のある世界」へと舵を切った歴史的な出来事と言えます。一方で、そのわずか10日前には、米国連邦準備制度理事会(FRB)が0.25パーセントの利下げを決定しており、日米の金融政策が真逆の方向に進む「グレート・ダイバージェンス」とも呼べる状況が鮮明になりました。
今回は、この歴史的な局面において、米国株投資家はどのような視点を持つべきなのか、そして市場で何が起きているのかを詳しく紐解いていきます。
市場の逆説。なぜ利上げで円安が進んだのか
経済学の教科書通りに考えれば、日本が金利を上げ、米国が金利を下げるのであれば、日米の金利差は縮小し、円高ドル安が進むはずです。しかし、現実の市場は真逆の反応を示しました。日銀の発表後、円相場は1ドル157円台後半まで下落し、円安が進行するという不気味な動きを見せたのです。この一見矛盾した動きには、主に3つの理由があります。
1つ目の理由は、投資の世界の格言である「噂で買って事実で売る」という動きです。今回の利上げは、市場参加者の間ではほぼ100パーセント確実視されていました。そのため、ヘッジファンドなどの短期筋は数週間前から利上げを見越して大量の円を買い、ポジションを積み上げていたのです。そして、実際に発表があった瞬間、彼らは一斉に利益を確定するために円を売りました。この規模が非常に大きかったため、短期的には円安圧力が勝ったと考えられます。
2つ目の理由は、上田総裁による「鳩派な利上げ」です。利上げそのものは決定されましたが、その後の記者会見で上田総裁は「今後の利上げはあくまで経済次第である」と慎重な姿勢を強調しました。市場の一部では、もっと強気に追加利上げを示唆する「タカ派」な発言を期待する声もありましたが、結果として慎重なメッセージであったため、市場に安心感が広がり、再び円を売ってドルを買う動きが加速したのです。
3つ目の理由は、最も本質的な要因である「実質金利の差」です。名目上の金利からインフレ率を差し引いたものが実質金利です。米国の政策金利は約3.5パーセントで、インフレ率が2.5パーセント程度であれば、実質金利はプラスの1パーセントとなります。対して日本は、今回金利を0.75パーセントに上げましたが、インフレ率が依然として2.75パーセント程度であるとすると、実質金利はマイナスの2.0パーセントとなります。この大きな差がある限り、お金がより価値の増えるドルへと流れるのは、構造的に自然なことだと言えるでしょう。
2026年に向けた2つのシナリオ
今後の投資戦略を立てる上で、私たちは2つの異なる未来を想定しておく必要があります。
メインシナリオとして期待されているのが「ソフトランディングと円安継続」のパターンです。これは米国経済が深刻な景気後退に陥ることなく、緩やかに成長を続けるケースです。過去の1995年の例を見ると、FRBが利下げを開始した後、S&P500は3年間で2倍以上に上昇したというデータもあります。この場合、株価は上値を試し続け、為替も日米の金利差を背景に145円から155円程度の安定したレンジで推移する、投資家にとって最も望ましい展開となります。
一方で、無視できないリスクシナリオが「リセッションと急激な円高」です。米国経済が予想外に失速し、本格的な景気後退に陥った場合、FRBは大幅な利下げを余儀なくされます。そうなれば日米の金利差は一気に縮小し、さらにリスク回避の円買いも重なって、為替は130円台、あるいはそれ以上の円高へと振れる可能性があります。これは米国株安と円高のダブルパンチとなり、円建ての資産価値が大きく目減りすることを意味します。JPモルガンはこのリセッション入りの確率を35パーセントと見ており、決して無視できない数字です。
米国株投資家が取るべき具体的なアクションプラン
このような不透明な環境下で、私たちが今できる具体的な対策は4つあります。
まず1つ目は、為替相場における160円というラインを「防衛ライン」として強く意識することです。政府・日銀が過去に何度も介入を行ってきたこの水準に近づいた場合、一気に数円規模の円高が進むリスクがあります。そのため、157円を超えたあたりで焦ってドルに替えるのではなく、介入等で一時的に円高に振れたタイミングを狙うか、時期をずらして購入する「時間分散」を徹底することが重要です。
2つ目は、「為替ヘッジあり」の商品を選択肢に入れることです。これまでは日米の金利差が大きく、ヘッジコストが非常に高かったため、ヘッジありの商品は不利な面がありました。しかし、今後は金利差が縮小していくため、ヘッジコストも下がっていきます。急激な円高リスクを回避するための「保険」として、為替ヘッジありの投資信託やETFを活用する戦略は、今後より現実的な選択肢となってくるでしょう。
3つ目は、ポートフォリオのリバランスです。現在の円安株高によって、多くの投資家のポートフォリオでは米国株の比率が当初の予定よりも高くなっているはずです。例えば、目標比率が50パーセントだったものが、値上がりによって70パーセントになっているようなケースです。このタイミングで一部を売却して利益を確定し、金利上昇の恩恵を受ける日本の銀行株などに資金を戻すことは、リスク管理として非常に有効です。
4つ目は、ドル資産を持つことそのものが「ナチュラルヘッジ」になるという視点を持つことです。もし将来的に日本で深刻な財政問題が起き、コントロール不能な円安が進んだ場合、円の価値そのものが失われてしまいます。そのような事態において、ドル建ての米国株を保有していることは、自身の資産をインフレから守るお守りのような役割を果たしてくれます。円高が怖いからといって全ての資産を円に戻すのではなく、バランスを保つことが大切です。
最後に
私たちは今、歴史的な金融政策の転換点という大きなうねりの中にいます。短期的な為替の動きに一喜一憂するのではなく、その背景にある「実質金利」や「複数のシナリオ」を冷静に見極めることが、2026年以降の投資の成否を分けることになるでしょう。
最も難しいのは、市場が大きく動いた時に、恐怖や欲望といった感情に負けず、自分が決めた戦略を貫くことです。数字上の戦略を立てるだけでなく、どのような局面でも落ち着いて行動できるよう、心の準備も整えておくことが、今最も必要な投資家としてのスキルかもしれません。これからの変化に富んだ市場を、冷静かつ柔軟な姿勢で歩んでいきましょう。
