皆様、こんにちは。今回は、市場の注目を一身に集め、「史上最高値」を更新し続けている量子コンピューター関連企業、「リゲッティ・コンピューティング(Rigetti Computing:RGTI)」について、詳しく掘り下げてまいります。
株価が文字通り「桁違い」の上昇を見せているリゲッティですが、その背景には、複数の好条件が同時に重なり合った「パーフェクトストーム」と呼べる状況があります。本記事では、この嵐の中心にある要因を整理し、今後の展望と潜むリスクについて解説いたします。
1. リゲッティの独自戦略:フルスタックとマルチチップ
リゲッティの最大の特徴は、量子コンピューターの開発において「フルスタックアプローチ」を採用している点です。
具体的には、
- 自社での量子チップの設計
- 専用工場「FAB 1」(カリフォルニア州)での製造
- クラウドを通じた量子コンピューティング能力の提供これらすべてを一貫して手掛けることで、開発サイクルの迅速化や独自技術の保護といったアドバンテージを追求しています。
技術的な根幹は、IBMやGoogleと同じ「超電導量子ビット」方式を採用していますが、リゲッティが特に力を入れているのが「マルチチップ・アーキテクチャ」、通称「チップレット」戦略です。比較的小さな量子プロセッサーチップを複数、高密度に接続することで、大規模かつ高性能な量子コンピューターを効率よく作ることを目指しています。
2. 株価を押し上げる「パーフェクトストーム」の構成要素
リゲッティの株価を過去1年で5,500%以上も押し上げた複合的な追い風は、主に以下の3点に集約されます。
(1) 技術面での画期的な進展
最も大きな要因は、技術的なマイルストーンの達成です。
同社は、36量子ビットのマルチチップシステム「セフス-1」において、2量子ビットゲートの忠実度(計算精度)を99.5%という非常に高い水準で達成したと発表しました。これは、以前の最高記録と比較してエラーの発生率を半分に減らしたことを意味します。計算の正確さが飛躍的に向上したことは、より実用的な複雑な計算への大きな一歩です。
この成果は、2025年末までに100量子ビットを超えるシステムを提供するという、同社の野心的なロードマップへの期待感を大幅に高めています。
(2) 大型契約と重要なパートナーシップの獲得
技術進展に加え、ビジネス面での大きな動きが市場の関心を集めました。
- 米空軍研究所(AFRL)との契約:3年間で約580万ドル規模のこの契約は、将来の量子インターネットの基盤となる「量子ネットワーク技術」の開発に関するものです。政府機関からの支援は、リゲッティの技術が国家安全保障上の重要分野で認められた証であり、市場に大きなインパクトを与えました。
- 商業的な受注:アジアの技術系企業やカリフォルニアのスタートアップから、9量子ビットシステム「ノベラ」2台の受注(合計約570万ドル)があったことも発表され、商業化への関心が高まっていることが示唆されました。
- 戦略的提携:インド政府系の研究機関C-DACとのハイブリッドシステム共同開発に関するMOU締結や、半導体大手のNVIDIAとのパートナーシップへの言及など、グローバルな連携も進んでいます。
(3) 強気なアナリスト評価とセクター全体への追い風
複数の証券会社がリゲッティの目標株価を大幅に引き上げています。B. Riley Securitiesなどは、目標株価を19ドルから35ドルへ引き上げ、政府や産業界の量子技術の実用化に対する関心が「転換点」を迎えているという見方を示しました。
さらに、JPモルガン・チェースが、AIやサイバーセキュリティと並んで量子コンピューティングを含む先端技術分野に、最大100億ドル規模の投資を行う計画を発表したことも、リゲッティ単独ではなく、量子コンピューティング分野全体への期待感を高める追い風となりました。
3. 今後の展望:夢と現実が交錯するリスク
史上最高値を更新したリゲッティですが、投資家としては、その大きなポテンシャルと同時に存在するリスクも理解しておく必要があります。
期待できる点(強気の材料)
- 潤沢な資金力と無借金経営:直近の資金調達などにより、リゲッティは約5.7億ドルの現金を保有しており、有利子負債がない「無借金経営」を続けています。これは、開発に時間がかかる量子コンピューティング分野において、当面の研究開発を継続するための非常に大きな支えとなります。
- 未来へのポテンシャル:創薬、材料開発、金融など、現行のコンピューターでは解けない問題を解決する量子コンピューティング技術そのものが持つ、計り知れない潜在的な市場規模は最大の魅力です。
- 技術的な独自性:自社ファブ「FAB 1」を持つことや、マルチチップ戦略といった独自のアプローチは、将来的な競争優位性につながる可能性があります。
注意すべきリスク(弱気の材料)
- 遠い商業化への道のり:多くの専門家は、量子コンピューターが本格的に大きな利益を生み出すのは早くても2030年代以降と見ています。現在の株価は、その遠い将来への期待をかなり前倒しで織り込んでいる可能性が高いです。
- 巨額の赤字:直近の四半期(2025年第2四半期)の収益は約180万ドルであるのに対し、純損失は約3,970万ドルに達しており、依然として大きな赤字経営が続いています。
- 激しい競争環境:すでに商業契約を持つIQや、独自の方式を採用するD-Waveに加え、潤沢な資金力を持つIBM、Google、Microsoftといった巨大テック企業が猛追しています。グローバルな競争は今後ますます激化するでしょう。
- 高い株価変動性:短期間での急騰は、利益確定売りによる一時的な下落や調整局面を引き起こすリスクを内包しています。また、金利上昇といったマクロ経済環境の変化は、リゲッティのような先行投資型のグロース株にとって逆風になりやすいです。
まとめ
リゲッティ・コンピューティングは、技術的な進展と契約獲得、市場の期待という「パーフェクトストーム」に乗り、記録的な急騰を見せています。しかし、その夢のようなポテンシャルの裏側では、商業化の不確実性や巨額の赤字、激しい競争といったリスクも山積しています。
まさに、大きなリターンを狙える可能性がある反面、大きなリスクも伴う「ハイリスク・ハイリターン」の典型例と言えるでしょう。
また、リゲッティが採用するマルチチップ戦略は、量子コンピューターの真の性能を決定づける要因が、単なる量子ビットの数ではなく、いかに効率よく、正確にチップ同士を接続し連携させるかという「接続技術(インターコネクト)」の質にかかっている可能性を示唆しています。今後も、この「繋がりの重要性」という視点で、同社の動向に注目していくことが重要です。
