昨今の「AIブーム」の波に乗り、今、米国株市場で特に注目を集めている企業が「サウンドハウンドAI(SoundHound AI、ティッカーシンボル:SOUN)」です。同社は、単なる音声認識技術の提供にとどまらず、「AI時代の耳」として独自の地位を築こうとしています。また、今をときめく「NVIDIA」のCEO、ジェンスン・フアン氏との意外な関係もご紹介します。
創業のルーツと革新的な技術
サウンドハウンドAIの設立は2005年。スタンフォード大学の卒業生らが立ち上げ、元々は鼻歌やハミングから曲名を検索できる音楽認識アプリ「Midomi(ミドミ)」としてスタートしました。この音楽認識で培った音声をリアルタイムで解析する能力を基盤に、より汎用的な音声AIプラットフォームへと進化を遂げたのです。
同社の核となる技術が「Speech-to-Meaning(スピーチ・トゥ・ミーニング)」です。これは、音声を一度テキストに変換してから意味を解釈する従来の方式とは異なり、音声を直接「意味」に変換する画期的な技術です。この技術により、競合と比べて最大35パーセントの精度向上、そして最大4倍の応答速度を実現していると主張しています。この圧倒的な速度は、ユーザー体験に直結する大きな強みです。
巨大テック企業と一線を画す「独立性」戦略
サウンドハウンドAIの最大の戦略的優位性は、「独立性」にあります。AmazonやGoogleといった巨大テック企業のプラットフォームに依存せず、企業が独自のブランドを保ち、顧客データを自社で管理できるカスタマイズされた音声対話体験を提供しています。
例えば、自動車メーカーが音声アシスタントを搭載する際、GoogleやAmazonのシステムを使えば、「OK Google」や「Alexa」と呼びかける必要があります。しかし、サウンドハウンドのプラットフォームを使えば、「Hey Mercedes」のように、企業独自のブランド名で呼びかけることができ、集めたデータもメルセデス側が管理可能です。これは、ブランドイメージを重視し、顧客データ活用に戦略的な企業にとって、非常に大きな魅力となります。
積極的なM&Aで成長を急加速
同社は、そのプラットフォームを多方面に展開するため、近年、M&Aを立て続けに実行し、成長を加速させています。
- レストラン市場の強化:
- 2023年12月に、AI音声注文のリーダー的存在である「3-Sync(スリーシンク)」を買収し、レストラン業界での足がかりを強化しました。
- 2024年6月には、オンライン注文マーケットプレイスの「Allset(オールセット)」を買収し、テイクアウトやドライブスルーといった分野でのサービス展開を強化しています。
- エンタープライズ市場への進出:
- 2024年8月には、大企業向けの対話型AIプラットフォーム「Amelia(アメリア)」を買収。これにより、金融サービスやヘルスケアなど、これまで手薄だった業界の大口顧客と、実績ある高度なAI技術を一気に獲得しました。
- さらに2025年9月には、顧客サービス自動化に特化した「Interactions Corporation(インタラクションズコーポレーション)」の買収を完了。これにより、新たな大口顧客と特許ポートフォリオを手に入れ、収益貢献、特に純利益の改善が期待されています。
このように、レストランとエンタープライズ(特に顧客サービス)という二つの大きな柱を短期間で構築し、買収後の既存顧客からの売上維持率(NRR)も120パーセントを超える水準に改善したことから、統合は順調に進んでいる兆候が見られます。
NVIDIAとの強力な戦略的連携
サウンドハウンドAIを語る上で欠かせないのが、半導体大手NVIDIAとの関係です。NVIDIAのCEOであるジェンソン・ファン氏は、サウンドハウンドのCEOを個人的に約10年間メンターとして指導していたという特別な繋がりがあります。
NVIDIAは初期の投資家でしたが、最近では投資家としての関係から、より純粋な「戦略的パートナーシップ」へと関係性が移行していると見られています。サウンドハウンドは、NVIDIAの強力なコンピューティングプラットフォーム「DRIVE AGX」などを活用することで、自動車に搭載する音声AIの応答速度と認識精度を大幅に向上させています。この技術的な連携は、同社にとって他の企業にはない非常に強力なアドバンテージとなっています。
高まる成長期待と投資リスク
同社の成長は著しく、2025年第2四半期の売上高は前年同期比でなんと217パーセント増という脅威的な伸びを示しました。経営陣は2025年末までに、調整後のEBITDA(税引前・利払い前・償却前利益)で黒字を達成するという目標を掲げています。
しかし、投資を考える上ではリスクも理解しておく必要があります。
- 収益性の課題: 売上は急成長していますが、まだ赤字経営が続いており、持続的な純利益レベルでの黒字化を実現できるかが最大の焦点となります。
- 高いバリュエーション: AI関連銘柄として市場の期待が非常に高く、株価は業績に対して割高な水準で取引される傾向があり、変動も激しいです。
- 顧客集中リスク: 売上のかなりの部分を少数の大口顧客に依存しているため、主要顧客との契約を失うことになれば業績への影響は避けられません。
- 競争と実行のリスク: Google、Amazon、Appleといった巨大テック企業との競争は激しく、その中で技術的な優位性を保ち続けるための継続的な研究開発投資が不可欠です。また、短期間に買収した企業の統合や、音声コマースなどの新規事業を計画通りに収益化できるかといった実行力も問われます。
サウンドハウンドAIは、巨大な音声AIのトレンドの中で独自の独立系プラットフォームというニッチを確立し、強力な技術と戦略的なM&A、そしてNVIDIAとの連携を武器に急速に事業を拡大している、非常にダイナミックな企業です。彼らがこの高いポテンシャルを、確固たるビジネスの成功へとつなげられるかどうかが、今後の最大の注目点と言えるでしょう。
