「国策に売りなし」は本当か? 半導体、レアアース、量子コンピュータ…米政府が資金を投じる注目銘柄の光と影

みなさんこんにちは。米国株投資家の間でしばしば話題に上る格言に「国策に売りなし」というものがあります。最近、この格言を地で行くような、非常に活発な動きがアメリカ政府内で見られています。それは、特定の企業に巨額の資金を投じたり、自ら大株主になったりするという異例の動きです。

この動きは、単なる企業救済にとどまらず、「半導体」、「レアアース」、「量子コンピューター」といった戦略的に重要な分野に集中的に発生しています。今日は、この「国策銘柄」の現状と、それを取り巻く企業のメリット・デメリット、そして私たち投資家が注目すべきポイントについて、一緒に深掘りしていきましょう。

1.始まりは衝撃的なインテルへの1.3兆円出資

最も大きなインパクトを与えたのが、半導体大手インテル(Intel)への出資です。アメリカ政府は、インテル株を約9.9パーセント、金額にして約1.3兆円分も取得し、一気に筆頭株主となりました。

これは、米国内での半導体製造能力強化を目指す「CHIPS法(チップス法)」に基づく補助金を、株式に転換したという形で行われました。しかも政府は、市場価格よりもかなり割安な価格で株式を取得しています。

この出資の発表後、インテルはCEOが進めてきたコスト削減策が功を奏し、直近の決算では7四半期ぶりに黒字転換するなど好調を見せました。また、ソフトバンクループやエヌビディア(NVIDIA)もインテルへの出資を決定しており、政府のお墨付きが民間投資を呼び込む「信用力の向上」というメリットを生んだ可能性も指摘されます。

しかしながら、課題も残されています。インテルは最先端の半導体技術において遅れが指摘されており、鍵となる先端プロセス「18A」の本格立ち上がりは2027年以降になる可能性も示唆されています。政府の支援は入ったものの、技術的な競争優位の確立は依然として企業の努力にかかっている状況です。

2. 国防総省まで動いた「レアアース」銘柄

インテルに続いて、重要な資源であるレアアース(希土類)関連企業にも政府の動きが見られました。国防総省(DOD)が、アメリカ国内で唯一稼働しているレアアース鉱山を持つ「MPマテリアルズ」に対し、約4億ドルを出資し、優先株として株式の15パーセント分を取得し、筆頭株主になる見込みです。

背景には、中国がレアアースの輸出を規制した際に、自動車産業などに影響が出たという経緯があります。これは、重要資源のサプライチェーンにおける中国への依存度が高く、安全保障上のリスクが大きいと判断されたためです。国防総省の介入は、中国への依存を減らし、国内のサプライチェーンを強化したいという強い意図の現れと言えます。

3. 噂される次世代技術の最前線「量子コンピューター」企業への出資

さらに、次世代の計算技術である量子コンピューターの分野にも政府の資金援助の協議が及んでいます。「イオンキュー(IonQ)」「リゲッティ・コンピューティング(Rigetti Computing)」「D-Wave Quantum」といった複数の企業に対し、商務省が資金援助の協議に入ったと報じられました。これもまた、最低1社あたり1,000万ドル規模の資金提供と引き換えに、政府が株式を取得する可能性が高いと見られています。

量子コンピューターは、米中の技術覇権争いの最前線の一つであり、政府が直接関与することで、次世代技術の主導権を確保したいという狙いが伺えます。報道後、関連企業の株価は急騰するなど、市場もこの動きに敏感に反応しました。

4. なぜ今、アメリカ政府は資金投入を急ぐのか

なぜアメリカ政府は今、これほどまでに企業への直接的な資金投入を急いでいるのでしょうか。その最大の要因は、「米中の対立の激化」とそれに伴う「経済安全保障」という考え方です。

半導体やレアアースのような戦略的に重要な技術や資源について、中国への依存度を下げ、サプライチェーンをアメリカ国内や同盟国中心に再構築したいという強い動機があります。安全保障と経済が一体で考えられているのです。

また、「重要な産業を国内で育て、保護していく」という、ある種のアメリカファースト的な発想や、CHIPS法のような特定の戦略分野に資金を投入するための法律整備も、直接出資という踏み込んだ形につながっています。

さらに、従来の共和党の自由市場を重んじる考え方とは異なり、政府がビジネスに積極的に関与するトランプ政権の介入主義的な姿勢も無視できない要素です。

5. 企業と投資家にとっての「光と影」

政府のお金が入ることは、企業にとって許諾の資金調達が可能になるという大きなメリットがあります。しかし、同時に「影」の部分にも注意が必要です。

企業側にとって最も懸念されるのは、経営の自由度が低下するリスクです。政府は「パッシブ投資」だと言っていても、筆頭株主である以上、間接的な影響や政治的な意向によって経済合理性に合わない判断を迫られる可能性があります。また、海外からは不当な支援と見なされ、海外でのビジネス展開に逆風が吹くリスクも指摘されています。

私たち投資家にとっても、この動きはチャンスであると同時にリスクでもあります。「国策に売りなし」の格言通り、発表時には株価が急騰し、短期的な値上がり益を狙える可能性はあります。また、国家的に重要と認められた証拠として、長期的な成長への期待にもつながります。

しかし、政府の支援は企業の根本的な問題解決を保証するものではありません。インテルの例で見たように、技術的な課題はお金だけでは解決できません。また、政権交代による政策変更リスクや、政治的なパフォーマンスに株価が左右され、本来の企業価値から歪んだ株価形成がされる可能性にも注意が必要です。

6. 次の国策銘柄を探すためのヒント

では、次に政府が関与してきそうな分野や企業を探すには、どこにアンテナを張るべきでしょうか。

まず注目すべきは、「セクター(分野)」です。これまでの流れから、半導体(特に製造装置や先端パッケージング)、重要鉱物(レアアース)、量子コンピューティングに加え、AI(インフラ・安全保障関連)、伝統的な防衛産業、バイオテクノロジー(医薬品の国内供給網)、そして次世代エネルギー関連などは引き続き注目すべき分野です。共通しているのは、経済安全保障や米中対立の文脈が色濃いということです。

次に、政府自身の動向をしっかりとウォッチすることです。商務省や国防総省の発表、CHIPS法に続くような新しい法案の動き、予算配分、そして政府高官の発言には、次なるヒントが隠されているかもしれません。

最後に、個々の企業の状況にも目を向けましょう。重要セクターに属し、高い技術力は持っているものの、資金繰りに課題を抱えている、あるいは国内での生産能力強化が求められている企業は、政府支援の候補になりやすいと言えます。

国策というキーワードは魅力的ですが、それに踊らされることなく、企業の実力や抱えている課題、そして政治的なリスクといった本質的な部分を冷静に見極めることが、最終的には重要になるでしょう。


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