現地時間の10月30日に発表された、「Apple(アップル)」の第4四半期(7月~9月期)決算。世界経済の動向にも大きな影響を与える超ビッグネームの決算に、投資家やテクノロジー業界全体が固唾を飲んで見守っていました。
全体としては記録的な更新が多く「力強い」と評価できる反面、市場が最も注目していた分野でわずかに期待を下回るという、「マダラ模様」とも言える結果となりました。本記事では、この最新決算を深掘りし、好調な数字の裏に潜む課題と、今後のAppleの成長を占う上で欠かせない「AI戦略」や「規制リスク」について詳しく解説していきます。
記録的な好決算。ただし、主力の「iPhone」が失速
今回の決算を一言で表現するならば、「記録更新は多いが、市場の期待には届かなかった」と言えるでしょう。
まず、力強い実績として、第4四半期の売上高は1,025億ドルで、前年同期比8%増とこの月としては過去最高を達成し、市場予想をわずかながら上回りました。また、**1株あたりの利益(EPS)**も1.85ドルで、前年同期比13%増と過去最高を更新しています。通期で見てもしっかり増収増益を達成しており、全体としては非の打ち所がないようにも見えます。
しかし、投資家が最も重視するポイントで、ネガティブな要素が見えてきました。
1. iPhone部門の予想未達
Appleの最大の稼ぎ頭であるiPhone部門の売上高(490.3億ドル)は、この時期としては過去最高だったものの、市場のアナリスト予想(約502億ドル)には届きませんでした。1番の収益源が期待に届かなかったことは、市場からネガティブに捉えられる要因となりました。
2. 中国市場の苦戦
もう一つの懸念材料は、地域別で**大中華圏(中国)**の売上(144.9億ドル)が、アナリスト予想(約162億ドル)をかなり下回った点です。中国経済の原則懸念や消費マインドの冷え込みに加え、ファーウェイなどの現地ライバルとの競争激化が、数字として明確に示された形です。
3. 安定した収益の柱「サービス部門」は過去最高
一方で、Apple Storeの手数料やApple Music、iCloudなどが含まれるサービス部門の売上高は287.5億ドルと、過去最高を記録しました。Apple製品を使っているアクティブデバイスの総数が過去最高を更新し続けていることもあり、この巨大なユーザー基盤が安定した収益の柱として、Appleの業績を力強く支えています。
期待の「AI」に遅れの指摘。ライバルとの差は?
市場がAppleの株価を押し上げ、一時的に時価総額4兆ドルを突破するまでに期待を寄せている最大の要因は、次世代のAI機能「Apple Intelligence」が、大規模な買い替えサイクルを引き起こすことです。
しかし、今回の決算発表後、その期待感に疑念が生まれています。
AI開発の遅延と外部連携の可能性
ブルームバーグの著名な記者などのレポートによると、発表されたAI機能の多くはまだ完成度が低く、実際にユーザーの手元に届くまでに数ヶ月、あるいは年単位で遅れる可能性があると指摘されています。特に、新しいSiriの中核機能である「文脈理解」や「画面情報認識」といった機能が、内部テストで失敗が報じられるなど、開発が難航している実態が明らかになりました。
開発の遅れには、他社買収や外部人材の獲得に消極的なApple特有の企業文化や、プライバシー保護への過度なこだわりが、AI開発に必要なデータ収集や活用を難しくしているという、複雑な要因が絡み合っています。
この自社開発の遅れを埋めるため、AppleはOpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiといった外部の高性能なAIを、iOSに統合することを真剣に検討しているようです。
日本の「スマホ新法」と規制の波がビジネスモデルを脅かす
AI開発の遅れと並ぶもう一つの大きな懸念材料が、世界各国で進むプラットフォーム企業への「規制強化」の波です。
特に日本では、2025年12月18日に「スマートフォン競争促進法」(スマホ新法)が全面施行される予定です。この法律は、AppleやGoogleのような巨大プラットフォーム企業に対し、市場開放と公正な競争環境を求めるものです。
具体的には、
- App Store以外からのアプリダウンロード(サイドローディング)の許可
- Apple Pay以外の決済システムの利用許可
- Safari以外のWebブラウザの自由な初期設定の許可などが求められています。
Apple側は、これらの要求がユーザーのプライバシーやセキュリティを危険にさらすものだと強く反発しています。EUでは同様の法律(DMA)が先行導入され、セキュリティ上の懸念から便利な連携機能の提供が見送られたり、非公式アプリストアの出現でマルウェア感染リスクが高まったりするなどの影響が出ています。
日本の法律には「正当化自由」(セキュリティ確保などの正当な理由での規制免除)が含まれていますが、その具体的な運用次第では、iPhoneの使い勝手、安全性、そしてAppleの収益性の根幹であるApp Storeの手数料ビジネスに直接的な影響が出る可能性があります。
投資家がチェックすべき4つのポイント
Appleの株価は現在、将来の成長への期待がかなりの程度織り込まれた水準(PER約32倍)にあります。この高い期待に見合う成長をAppleが実現できるのか、投資家として以下の4点に注視する必要があります。
- AI開発の進捗:競合にキャッチアップし、ユーザーを惹きつける真の「Apple Intelligence」を計画通りに提供できるか。
- 規制への対応:日本のスマホ新法をはじめとする各国の規制強化の波にどう対応し、ビジネスモデルへの影響を最小限に抑えられるか。
- 中国市場の動向:競争が激化する中国市場で、シェアを維持、あるいは拡大できるか。
- イノベーション投資:積極的な株主還元だけでなく、次の大きな成長を生み出すためのイノベーション投資が効果的に行われているか。
圧倒的なブランド力、強固なエコシステム、サービス部門の安定成長といった強みは健在であるものの、AI開発の遅れや規制強化といったリスクも顕在化しており、現在は「期待とリスクが拮抗」している状況です。Appleがこの正念場を乗り越え、次の成長ステージに進めるかどうか、今後の動向から目が離せません。
