オキュラス開発者の神童「パルマー・ラッキー」が挑む防衛Tech「アンドリル・インダストリーズ」は次のパランティアか?

皆様、こんにちは。今回は、米国株投資の世界で今最も注目すべき、異色のスタートアップ企業「アンドリル・インダストリーズ(Anduril Industries)」について深掘りしていきたいと思います。

この企業のユニークな点は、その事業内容だけではありません。創業者が、わずか10代でVRヘッドセット「オキュラス」を開発し、21歳でFacebook(現メタ)に20億ドルで売却した「神童」、パルマー・ラッキー氏(Palmer Luckey)だという点です。華々しいVRの世界から一転、彼が次に選んだのが「防衛Tech」。なぜ彼は今、この分野で新たな革命を起こそうとしているのでしょうか。

アンドリルが掲げる「防衛製品会社」という革新

「アンドリル」は2017年にカリフォルニアで設立された、比較的新しい企業です。その主力は、AI(人工知能)とロボティクスを組み合わせた自立システムの開発と提供です。具体的には、ドローンや監視塔、水中探査機といったハードウェアと、それらを統合管理するOS(オペレーティングシステム)「Lattice(ラティス)」を開発しています。

このラティスOSがアンドリルの頭脳です。センサーやドローンからの情報をリアルタイムで収集・分析し、戦場や国境の状況を分かりやすく提示することで、人間が素早く的確な判断を下せるよう支援する役割を担っています。

そして、アンドリルの最大の革新は、そのビジネスモデルにあります。

従来の軍事産業は、政府から「こういうものを作ってほしい」と依頼されてから開発を始めるのが一般的でした。しかし、アンドリルは自らを「防衛製品会社」と呼び、この慣習を打ち破っています。ベンチャーキャピタルなどから集めた資金で、「今、国を守るために何が必要か」を独自に考え、製品を先に作ってから政府に提案し、販売するのです。

これはまさに、シリコンバレーのスタートアップが市場のニーズを先取りしてリスクを取りに行く手法そのものです。この「スピード感」こそが、長らく変化が遅いと言われてきた防衛産業において、アンドリルが大きな強みとなっている理由です。社名も、トールキンの小説『指輪物語』に出てくる伝説の剣「アンドゥリル」(西方世界の炎)から取られており、「テクノロジーで西側世界を守る」という創業者の強い意志が込められています。

ビッグテックとの連携と驚異的な実績

アンドリルは、その技術力と革新性から、名だたるテック企業や政府機関との連携を深めています。

まず、データの巨人パランティア・テクノロジーズとの関係は深く、アンドリルの創業メンバーには、会長のトレイスティーブンス氏をはじめパランティア出身者が多くいます。技術的にもデータ解析と自立システムは相性が良く、連携を強化しています。

さらに、最先端のOpenAIとは、国家安全保障向けのAI、特にドローン対抗システムなどの分野で戦略的なパートナーシップを締結。Microsoftの米軍向けARゴーグル開発プロジェクトを一部引き継ぐ形で提携したことも、その技術力の高さを証明する出来事でした。そして、ラッキー氏の古巣であるメタとは、軍用XRヘッドセットの開発で協力するなど、ドラマ性のある提携も実現しています。

主要な顧客はもちろん政府機関です。アメリカの国防総省(DOD)や国土安全保障省(DHS)、税関国境局(CBP)などと多くの契約を結んでいます。中でも特筆すべきは、2022年に特殊作戦軍(SOCOM)と結んだ、最大約10億ドル(当時のレートで約1000億円超の可能性)という異例の大型契約です。設立間もないスタートアップがこれほどの契約を獲得したことは、業界全体に大きな衝撃を与え、アンドリルの名前を一躍世界に知らしめました。

パルマー・ラッキー氏の多面的な人物像と転身の動機

創業者のパルマー・ラッキー氏は、その経歴も異彩を放っています。10代でVRヘッドセットの原型を開発し、21歳で億万長者になったラッキー氏ですが、その後、政治的スタンスを巡る問題などもあり、2017年にFacebookを解雇されるという挫折も経験しました。

彼は筋金入りのガジェットオタクとしても知られ、最近では「究極のゲームボーイカラー」互換機を自ら開発して発売するなど、その探求心は留まることを知りません。また、日本のゲームやアニメの熱心なファンでもあり、日本のイベントでは人気ゲーム『メタルギアソリッドV』の露出度の高い女性スナイパー、クワイエットのコスプレ姿で登場したという逸話も持ち主です。アロハシャツにサンダルという個性的なスタイルで、世界のトップ経営者や政治家とも交流する、本当に多面的な人物なのです。

そんなラッキー氏が「防衛Tech」に転身した動機は、非常に切実なものでした。

VRビジネスで製品製造を中国で行っていた経験から、知的財産の盗難や技術の模倣といったリスクを目の当たりにした彼は、「大事な防衛技術を、将来的な競争相手になるかもしれない国に頼ってはいけない」という強い危機感を抱くようになりました。この実体験に基づく問題意識、Facebookからの解雇による既存テック業界への反骨精神、そしてパランティア出身者からの誘いがすべて結びつき、アンドリル創業へと繋がったのです。

非上場で「4.6兆円」超え その評価の理由

アンドリルは、しばしば「次のパランティア」と呼ばれます。これは、創業メンバーや投資家(ピーター・ティール氏のファウンダーズ・ファンド)、そして政府機関を主要顧客とするビジネスモデルの共通点に加え、その企業価値の上がり方が、上場前のパランティアを彷彿とさせるためです。

2025年6月時点での資金調達時におけるアンドリルの評価額は、なんと「305億ドル(日本円で約4.6兆円)」と報じられています。非上場企業としては驚異的なこの評価額は、一体どこから来ているのでしょうか。

  1. 創業者自身のカリスマ性: ラッキー氏のドラマチックな経歴と話題性が、メディアと投資家の関心を常に集めています。
  2. 破壊的イノベーション: 伝統的な防衛産業に、シリコンバレー流のスピードとソフトウェア中心の考え方という「破壊的な風」を吹き込んだ点が評価されています。
  3. 最先端の技術: AI、自立システム、サイバーセキュリティなど、現代そして未来の安全保障に不可欠な最先端技術を扱っている点です。
  4. 確かな実績: 非上場ながら、2024年の売上が10億ドル規模に達したと推計されるなど、大型契約を次々と獲得し、ビジネスとして着実に成長している事実です。
  5. 地政学的な追い風: 世界的な緊張の高まりにより、国防技術への関心と投資が世界的に増加している時代の背景も、アンドリルにとっては大きな追い風となっています。
  6. IPOへの期待: ラッキーCEO自身が将来的な上場を目指していると公言しており、これだけ注目と成長を伴う企業がIPO(新規株式公開)に踏み切るとなれば、市場の一大イベントになることは確実です。

アンドリルは、テクノロジー、ビジネスモデル、創業者のキャラクター、そして時代の流れ、その全てが完璧に噛み合った非常にユニークな存在です。防衛という閉鎖的だったかもしれない世界に風穴を開け、その勢いは止まるところを知りません。

今後、アンドリルのような企業が台頭することで、戦争や国の守り方、安全保障のあり方がどのように変化していくのか。AIや自立システムがさらに進化する未来において、私たちは技術と社会の付き合い方を深く考えていく必要がありそうです。投資家としてだけでなく、時代の変化を捉えるためにも、引き続きアンドリルの動向から目が離せません。


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