こんにちは。今回は、近年特に話題が尽きない「量子コンピューティング」の分野で注目を集める企業、「D-Wave Quantum(ティッカーシンボル: QBTS)」の最新の第3四半期決算と、その後の動向について詳しく見ていきましょう。
表面的な赤字拡大に惑わされないこと
先日発表された第3四半期決算は、一見すると少し複雑な内容でした。まず売上高は370万ドルと、市場予想の約303万ドルを大きく上回る好調ぶりです。特筆すべきは、前年同期比でなんと100%増という「倍増」の成長を見せた点です。前四半期比でも20.8%増と、その成長の勢いは非常に力強いと言えます。
また、投資家が重視する調整後の一株当たり利益(Adj. EPS)も、市場予想を上回って改善傾向にあります。
しかし、一方で米国で一般的な会計基準(GAAP)に基づく最終赤字は、大幅に拡大してしまいました。ここで重要なのが、その理由です。
この大幅な赤字拡大のほとんどは、「ワラント(新株予約権)の評価額再測定に伴う非現金・非営業費用」によるものなのです。簡単に言えば、D-Waveの株価が上がったことで、将来株式に変わるワラントの会計上の価値も上がり、それがルール上費用として計上されただけのことです。実際に会社からキャッシュ(現金)が出ていったわけではなく、本業のビジネスが悪化したことを示すものでもありません。
見かけの数字だけを見て「業績悪化だ」と早合点してはいけない、まさに成長段階にある企業特有の、会計上の処理が影響した結果と言えるでしょう。
受注は絶好調、キャッシュは過去最高水準
本業の成長を示す受注(ブッキングス)の状況も非常に明るい話題を提供してくれました。第3四半期の受注額は2,400万ドルと、前四半期から80%も増加しています。さらに、四半期終了後のわずか1ヶ月ちょっとで、すでに1,200万ドル以上の追加受注を獲得しているとの発表もあり、将来の売上につながる事業のパイプラインが急速に拡大していることが分かります。
そして、特筆すべきは会社の財務体力です。第3四半期末の現金残高は、なんと過去最高水準の8億3,620万ドルを超え、前年同期と比較して2,700%以上の驚異的な増加となりました。これもまた、先ほどのワラントが積極的に行使されたことで、会社に大量の資金が流入した結果です。
量子コンピューターのような最先端技術の開発には莫大な資金が必要ですが、これだけの潤沢なキャッシュがあれば、競合が多い技術開発競争や事業拡大を長期的に有利に進めるための強力な武器となります。
実用化へ向けた顧客基盤と技術進捗
D-Waveは顧客基盤の多様化と拡大も着実に進めています。過去4四半期で収益に貢献した顧客は100社を超え、その中には世界的な大企業も名を連ねています。具体的には、製造ワークフローの最適化に取り組む化学大手や、警察車両の最適配置問題に取り組むイギリスの警察など、実用的な応用事例が増えている点が注目されます。
また、イタリア政府や研究機関との間で、最新システムの計算能力提供に関する大型契約(約16億円規模)が発表されたことも、国レベルでの量子コンピューター活用への関心の高まりを感じさせます。
技術面では、D-Waveが得意とするアニーリング方式の最新システム「Advantage2」が、アメリカの防衛関連企業に設置され稼働を開始するなど、国防分野での活用も進んでいます。
将来的な主流技術となる可能性があるゲート方式についても、新しい量子チップと制御システムの製造が完了し、スケーラブルなシステムの実現に向けた実証段階に入っており、アニーリングとゲートの「両輪戦略」を着実に推進している状況です。
政府介入の話題と投資への視点
決算発表前には、バイデン政権が国家安全保障上の観点から、D-Waveを含む複数の量子コンピューター企業への直接的な株式取得を協議しているという報道が飛び出し、株価が一時急騰しました。この分野における中国との技術競争、そして将来の暗号解読リスクへの対応が背景にあると見られています。しかし、その後アメリカの国務省担当者が協議を否定するコメントを出し、真相はまだ不透明です。
この手のニュースに飛びついて投資判断を下すのは非常にリスクが高いため、常に情報の確度については慎重に見極める必要があります。
「D-Wave」の将来性と投資リスク
D-Waveは、長年の実績と技術的リーダーシップを持つアニーリング技術、将来の主流を見据えたゲート方式への投資、力強い売上・受注の成長、そして8億ドルを超える潤沢なキャッシュといったポジティブな要因を総合的に見ると、今後巨大な成長が見込まれる量子コンピューティング市場において非常に面白いポジションにいる企業だと評価できます。
ただし、投資対象としては「ハイリスク・ハイリターン」の典型です。
投資を検討される際には、以下の点に注意が必要です
- 技術の不確実性: 量子コンピューターはまだ黎明期の技術であり、実用化までの期間や、どの方式が主流になるかはまだ定まっていません。
- 収益性の問題: 現在は研究開発が先行し、まだ赤字経営です。商業的な成功までには長い時間がかかる可能性があり、期待が剥落した際の下落リスクがあります。
- 株式の希薄化リスク: 潤沢なキャッシュがあるとはいえ、今後の大規模な研究開発や設備投資のために、新たな株式発行による資金調達が行われ、一株当たりの価値が希薄化する可能性があります。
- 株価の変動性の高さ: ニュース一つで株価が大きく変動しやすく、常に高値掴みをしてしまうリスクがあります。
この分野への投資は、あくまで失っても生活に困らない余裕資金の範囲内で、かつ短期的な値動きに一喜一憂せず、5年、10年といった超長期的な視点で技術の進展と会社の成長を見守る姿勢が重要になると言えるでしょう。
