AI時代の「耳」のポジションを狙う「SoundHound AI」の3Q決算と着実な成長戦略

こんにちは。「米国株投資」の耳よりな話へようこそ。

今回は、AIブームの中で独自の地位を確立しようとしている企業、「サウンドハウンドAI(シンボル: $SOUN)」の最新の第3四半期決算を深掘りし、その成長の確信に迫ります。このユニークな音声AI企業が、巨大テック企業がひしめく市場でどのように競争優位性を築こうとしているのか、詳しく見ていきましょう。

独自の技術「Speech-to-Meaning」が切り拓く新時代

サウンドハウンドAIは、2005年に設立された音声AI技術のパイオニアです。元々は鼻歌で曲を検索するアプリ「Midomi」からスタートしましたが、現在では多様な業界向けにカスタマイズ可能な音声AIプラットフォームを提供しています。彼らが目指すのは、人間にとって最も自然なインターフェースである「声」を通じて、テクノロジーとスムーズに対話できる世界を実現することです。

彼らの最大の特徴は、独自の技術「Speech-to-Meaning™」にあります。これは、SiriやAlexaといった多くの競合が採用している「音声をテキストに変換し、その後テキストの意味を解析する」という二段階のプロセスを排除し、音声をテキストを介さずに直接意味に変換する技術です。

このアプローチにより、より速く、より正確な応答が可能になると主張されています。特に騒がしいレストランや車内といった環境でも高い認識精度を誇り、応答速度は最大で4倍速いとも言われています。音声から直接意味を理解するという点は、他社との大きな差別化ポイントになっています。

SiriやAlexaとは違う優位性とは?

このサウンドハウンドの技術が企業にとって持つ価値は、「独立性」にあります。

例えば自動車メーカーの場合、「OK Google」や「Hey Siri」ではなく、「OK メルセデス」のように自社のブランド名でAIを呼び出すことが可能になります。さらに、その対話を通じて得られる貴重な顧客データを、巨大テック企業に依存することなく、自社で管理し活用できるのです。これは、ブランド体験の向上、そしてデータ戦略において非常に大きなメリットとなります。巨大テック企業への依存を避け、自社ブランドで呼べてデータも自社で握れるという点は、多くの企業にとって大きな魅力となっています。

力強い成長を続ける第3四半期決算

今回の第3四半期決算を一言で表すと、「力強い成長は継続しているものの、収益化への道のりはまだ途中」といった状況です。

売上高は前年同期比でなんと68パーセント増の4,200万ドルを達成しました。この勢いを受けて、会社は2025年通期の売上高ガイダンスを1億6,500万ドルから1億8,000万ドルの範囲へと引き上げており、成長への自信を覗かせます。財務面では、手元の現金が約2億ドルと潤沢であり、実質的に無借金経営であることも安心材料です。

一方で、GAAP(一般会計基準)ベースの純損失は1億930万ドルと、一見すると大きな赤字に見えます。しかし、この中には過去の買収に関連する株式支払い(偶発対価)の評価額変動による、一時的な非現金損失が6,600万ドルも含まれています。このような特殊要因を除いた非GAAPベースで見ると、純損失は1,300万ドルであり、赤字幅は縮小傾向にあると言えます。また、非GAAPの売上総利益率も約59パーセントと比較的安定しており、成長に向けた投資が先行している状況です。経営陣は2025年末までの調整後EBITDAでの黒字化を目指しており、これが市場の信頼を勝ち取るための大きな関門となるでしょう。

積極的なM&Aで垂直市場の地位を固める

サウンドハウンドの成長は、特定の分野に偏ることなく多方面で拡大しています。

自動車分野では、ヨーロッパのジープへのチャットAI技術導入、ドイツの新興EVメーカーやイタリアの商用車メーカー、インドの二輪車メーカーなど、グローバルに採用が広がっています。また、レストラン分野では、ファイブガイズ、MODピザ、レッドロブスターといった人気店での導入が進んでいる他、ピーツコーヒーでは従業員支援にも使われています。

さらに、ヘルスケア、金融、通信、IoTなど、本当に幅広いエンタープライズ(大企業)向け市場でも採用実績を積み重ねています。大手技術ディストリビューターであるTD SYNNEXとの提携も発表され、大企業への販売経路も強化されました。

この急成長を支える鍵となっているのが、積極的なM&A(企業の合併・買収)戦略です。彼らはレストラン向けAIのS3、オンライン注文プラットフォームのオールセット、そして大企業向け対話AIのアメリアなどを買収し、特に金融やヘルスケア分野を一気に強化しました。

最近では、顧客サービスAIと自動化に強いインタラクションズLLCを買収し、自律型AIエージェント分野でのリーダーシップを強化しました。これは、単に顧客を増やすだけでなく、技術、人材、特定市場での地位をパズルのピースをはめるように一気に獲得し、収益性の改善に直結すると期待されている戦略です。巨大テック企業と正面から戦うのではなく、特定の垂直市場に特化した包括的な音声AIソリューションを提供することで、確固たる地位を築こうとしているのです。

CEOはNVIDIAのジェンスン・フアンの弟子?

サウンドハウンドといえば、NVIDIAとの関係性も非常にユニークです。

実は、サウンドハウンドのキーヴァン・モハジャーCEOは、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOの長年のメンターのような指導を受けていました。モハジャー氏がスタンフォード大学の寮で会社を始めた頃から、フアン氏は個人的に10年間、ほぼ毎週のように指導をしていたそうです。

NVIDIAは初期からの投資家でもありましたが、2025年2月には保有していたサウンドハウンド株をすべて売却しました。これにより株価は一時的に下落し、「NVIDIAに見限られたのではないか」という憶測も流れました。しかし、これはNVIDIA側のポートフォリオ整理や利益確定的な動きだったと見られており、株式売却後も両者の技術面での戦略的パートナーシップは継続・拡大している点が最も重要です。サウンドハウンドは、NVIDIAの高性能なAIプラットフォームを活用して音声AIの能力をさらに高めています。これはNVIDIAからサウンドハウンドの技術への「お墨付き」とも捉えることができるでしょう。

未来の展望と投資リスク

サウンドハウンドが将来的に目指しているのは、「Agentic AIフレームワーク」の推進です。これは、生成AIと複数のAIエージェント、そして従来のAIモデルを組み合わせ、より高度なシステムを構築するものです。

例えば、車内から「近くの評価の高いイタリアンを探して、7時に2名で予約し、近くの駐車場も確保して支払いも済ませておいて」といった複雑なタスクを、音声だけでシームレスに完結させる「ボイスコマース」の世界を目指しています。さらに、カメラで捉えた視覚情報も理解するビジョンAIとの組み合わせにより、より人間らしい自然な対話を実現しようとしています。これは自動車やレストランにとどまらず、ヘルスケアや金融などあらゆる産業に応用できる可能性を秘めています。

アナリスト予測では、2027年まで年平均で約36パーセントという高い収益成長が期待されています。その未来像が実現すれば、大きな成長が期待できることは間違いありません。

しかし、投資を考える上ではリスク要因もしっかりと見ておく必要があります。

第一に、株価バリュエーションです。将来の大きな成長期待がすでに株価にかなり織り込まれているため、市場の期待に応えられないと判断されると株価は大きく変動する可能性があります。これはハイグロース株特有のリスクと言えます。

第二に、収益性です。売上は急成長していますが、まだ赤字の状態が続いています。2025年末までの調整後EBITDAでの黒字化という目標を達成し、その先に持続的な純利益を出せるようになるかどうかが、市場の信頼を勝ち取るための最大の課題です。

第三に、競争環境です。Google、Amazon、Appleといった巨大テック企業は依然として強力な競合であり、特定の分野ではセレンスのような専門性の高い競合も存在します。彼らとの競争は常に意識し続ける必要があります。

高い成長期待の裏には、積極的なM&Aに伴う事業統合のリスク、成長資金調達やインセンティブのための新株発行による株式の希薄化など、相応のリスクが伴うことも理解しておくべきでしょう。

サウンドハウンドAIは、巨大AIモデルが領域を飲み込もうとしている現代において、「汎用性」ではなく「専門性」と「企業の独立性」を武器に、独自の道を切り開こうとしています。彼らがその独自性をどうビジネスの成功に繋げていくのか、今後も目が離せない企業です。


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