読者の皆様、こんにちは。「米国株投資の耳よりな話」へようこそ。今回は、株式市場に衝撃が走ったビッグなニュースについてお届けします。2008年の金融危機を予見し、映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のモデルにもなった伝説の投資家、「マイケル・バーリ」氏が、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのAI関連株、「NVIDIA(エヌビディア)」と「パランティア」に対し、大規模な「空売り」(ショート)を仕掛けたというのです。
伝説の投資家が仕掛けた「史上最大の賭け」
まず、空売りを仕掛けたバーリ氏がどのような人物か、簡単におさらいしましょう。彼は元々、神経科や病理科の研修を積んだ医師というユニークな経歴を持ちます。投資家としては、住宅市場の崩壊、「サブプライム・ローン」の破綻を正確に予測し、空売りで莫大な利益を上げたことで一躍有名になりました。彼の投資哲学は、ウォーレン・バフェット氏も師と仰ぐベンジャミン・グレアム流の「バリュー投資」にあり、「安全域(マージン・オブ・セーフティ)」を重視するスタイルです。企業の本質的な価値に対し、市場価格が割安になった時だけ株を買うという確固たる信念を持っています。
そのバーリ氏が率いる投資会社サイオン・アセット・マネジメントが、米証券取引委員会(SEC)への提出書類(フォーム13F)で、NVIDIAとパランティアの株価が下がると利益が出る「プットオプション」を大量に購入していることが明らかになりました。その規模が驚くべきものです。ある情報によれば、サイオンの運用資産ポートフォリオの約8割近くを、これら2銘柄の空売りに関連するポジションに費やしていると見られています。具体的な割合は、パランティアに約66パーセント、NVIDIAに約13.5パーセントを投じているとのことです。金額にして総額11億ドル(日本円で1,500億円以上)とも言われる、まさに「空売り王」による積極的な売り戦略と言えるでしょう。
「X」での警告:市場の加熱はバブルか
この大胆な動きと時を同じくして、バーリ氏自身もSNS(X、旧Twitter)で、映画で彼がモデルとなったキャラクターの画像を添え、意味深なメッセージを発信しました。アカウント名「カサンドラ・アンチエンド」(解き放たれたカサンドラ)は、ギリシャ神話で誰にも信じてもらえなかった悲劇の予言者を意味します。彼は**「時に我々はバブルを見る」「唯一の勝ち筋はゲームに参加しないことだ」**とポストし、今のAIブームの加熱ぶりを「バブル」だと指摘し、高値掴みを避けるよう賢い投資家へ警告しているように聞こえます。
一方、空売りを仕掛けられたパランティアのCEO、アレックス・カープ氏は黙っていません。好決算発表の翌日、CNBCなどのインタビューでバーリ氏を名指しで激しく非難しました。「彼が間違っていると証明された日には、私は踊り回ってやる」と感情的な言葉で反撃し、NVIDIAのチップとパランティアのソフトウェアを空売りするのは「正気の沙汰じゃない」とまで言い切りました。自社の技術力とAI市場全体への強い自信があるからこその、プライドをかけた対立と言えます。
市場に広がる「バーリ・ショック」と懸念材料
バーリ氏のポジションが明らかになった前後で、市場は大きな動きを見せました。報じられた当日、ターゲットとなったパランティアは約8パーセント、NVIDIAも2から4パーセント程度下落しました。この売り圧力は2銘柄に留まらず、ハイテク株全体へと広がり、情報技術セクターは軒並み売られました。S&P 500やナスダック総合指数も大きく下落し、特に半導体関連株の指数であるフィラデルフィア半導体指数(SOX指数)は4パーセントも下落しました。この影響は翌日のアジア市場にも波及し、日経平均株価が一時1,300円近く下落する場面も見られました。一部では「バーリ・ショック」と呼んでもいいような連鎖的な下落でした。
しかし、ここで冷静になるために抑えておきたいのは、バーリ氏の予測が常に当たるわけではないという点です。比較的最近でも、彼は主要株価指数に対して大規模な空売りを仕掛けましたが、市場がその後上昇したため、結果的に失敗に終わっています。彼は時に「タイミングが早すぎる」と指摘されることもあるのです。
とはいえ、彼だけが警鐘を鳴らしているわけではないのも事実です。ほぼ同時期に、モルガン・スタンレーのCEOやゴールドマン・サックスのCEOといったウォール街の大物たちも、「株式市場から15パーセント程度の調整(下落)を迎える可能性は十分にある」といった趣旨の発言をしています。
専門家が共通して懸念点として挙げているのは、「バリュエーション(株価評価)が高すぎること」です。例えば、NVIDIAのPER(株価収益率)は54倍、パランティアに至っては一時期400倍を超える水準でした。歴史的な平均値であるS&P 500の15〜20倍程度と比較すると、AI関連株のPERは突出して高い水準にあります。将来の成長への期待がものすごく織り込まれている証拠です。
さらに「市場の集中」も懸念されています。S&P 500の構成銘柄のうち、上位わずか10銘柄だけで指数全体の価値の40パーセント以上を占めるという異常な状況です。これはITバブル(ドットコム・バブル)の時よりも集中度が高く、市場の健全性という点からは懸念材料と言えます。また、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイは、現在、過去最高額となる50兆円を超える巨額の現金を保有しており、現在の市場価格を割高と判断し、魅力的な投資機会を待っている姿勢の現れではないかと解釈されています。
投資家としての心構え
一方で、今のAI関連企業は、ドットコム・バブルの頃の「実体のない企業」とは異なり、NVIDIAのように実際に記録的な売上と利益、潤沢なキャッシュフローを生み出しているという点は、希望の持てる大きな違いです。問題は、その利益に対して現在の株価が妥当なのか、それとも将来のさらなる成長を過剰に期待しすぎているのかという点に尽きます。今の株価下落が一時的な「健全な調整」の範囲内なのか、バーリ氏が予見するような「本格的なバブル崩壊の始まり」なのかを、現時点で正確に見極めるのは非常に難しいと言わざるを得ません。
このような時こそ、投資家としての冷静な判断が求められます。市場の短期的な価格変動に一喜一憂しすぎないことが大切です。
ご自身が最初に決めた「長期的な資産形成なのか」「短期的な利益追求なのか」といった投資の目標や、「どれくらいのリスクなら受け入れられるのか」といったご自身の投資方針とリスク許容度に合わせて冷静に投資を続けるのが王道です。もし、現在の市場は加熱しすぎていると感じるのであれば、保有株の一部を売却して利益を確定させたり、バフェット氏のように現金比率を高めて次の投資チャンスを待つというのも有効な戦略でしょう。
何よりも重要なのは、今回のようなセンセーショナルなニュースや、それに対する感情的な反論、あるいは専門家の様々な意見など、多様な情報があることを理解した上で、最終的にはご自身の頭で冷静に状況を判断し、行動を取ることです。
歴史は繰り返さないが韻を踏む、という有名な言葉があります。過去のバブルと崩壊から学びつつ、現状を多角的に、そして冷静に分析していく姿勢が、これからの不確実な市場で投資を続けていく上で、最も重要になってくるのではないでしょうか。
