いつもありがとうございます。今回は、最近の市場で最も気になるテーマの一つ、「米国株の割高感」について、深掘りして考えていきたいと思います。
ここ数週間、特にAI関連のハイテク株は不安定な値動きを見せています。決算が好調であっても株価が下がる、いわゆる「乱高下」が目立ちました。例えば、「メタ(旧フェイスブック)」は売上高予想を超えたものの、AIインフラへの巨額な設備投資の発表が、短期的な利益成長を圧迫するのではないかという懸念から売られました。この動きは、市場がAIブームそのものに期待しつつも、その投資がいつ、どれくらいのスピードで利益となって現れるのか、という点に非常に敏感になっていることを示しています。
このような市場の「熱気と警戒感」が混在する中で、投資の神様であるウォーレン・バフェット氏の動向と、彼の投資判断に関連する指標が改めて注目を集めています。具体的には、「バフェット指数」と、彼の会社バークシャー・ハサウェイの「過去最高の現金保有比率」です。
異常な水準を示す「バフェット指数」
バフェット指数とは、その国の株式市場全体の時価総額を名目GDPで割って算出する指標で、国の経済規模に対して株の市場がどれほどの価値になっているかを示します。一般的に100パーセントを超えると割高と判断される傾向があります。
現在の米国のバフェット指数は、複数の分析で軒並み200パーセントを超えており、ある分析では219パーセントにも達しています。これは、2000年のITバブルのピーク時(約150パーセント)をも上回る、歴史的に見ても極めて高い水準です。バフェット氏自身も、この指数が200パーセントに近づく状況での投資は「火遊びのようなもの」と過去に警告したことがあり、現在の市場が実体経済の規模と比べてかなり加熱している可能性を示唆しているのです。
神様が積み上げる「過去最高の現金比率」
さらに注目すべきは、バフェット氏の会社バークシャー・ハサウェイの具体的な行動です。2025年9月末時点で、バークシャーの手元資金(現金と短期の米国債)は過去最高の3817億ドル(日本円で約58兆円)に達しました。これは総資産の31パーセントを超えており、データが比較できる1988年以降で初めて3割を超えた水準だそうです。
同時に、バークシャーは3年間(12四半期)連続で株を売り越しており、さらに自社株買いも5四半期連続で見送っています。この明確な行動は、「今は市場全体で魅力的な値段で買えるものが見当たらない」というバフェット氏の判断を強く示唆していると解釈するのが自然でしょう。過去、現金保有高が非常に高くなった後に市場が大きく調整した例(ITバブル崩壊前、リーマンショック前など)も指摘されており、彼は次の大きな投資チャンスをじっと待っている状態だと考えられます。
割高論への反論と「構造変化」の視点
もちろん、割高シグナルを巡っては異論もあります。バフェット指数が高くても株価が上がり続けた局面もありますし、現在の巨大ハイテク企業は世界中で収益を上げており、米国のGDPだけで割高かどうかを判断することには限界があるという指摘もあります。
また、S&P500指数の高いPERは、高成長のマグニフィセント・セブンのようなハイテク株が指数に占める割合が非常に大きくなったことによる「構成銘柄の変化」が原因である側面も指摘されています。実際に、全部の銘柄を同じ金額ずつ保有したと仮定して計算する「S&P500均等加重指数」のPERを見ると、歴史的な平均水準に近いという分析もあり、一部の巨大株の影響を除けば市場全体の過熱感はそれほどでもない可能性も示唆されています。現在の株価水準は、単なる熱狂だけでなく、この10年で実現された企業の高い利益成長をある程度反映した結果であるという見方も無視できません。
バフェット氏が狙うのは「米国」ではなく「日本」?
このような加熱感と構造変化の議論が交錯する中、バフェット氏は一方で日本に熱い視線を送っています。バークシャーは2019年から継続的に日本円での債券(円建て債)を発行しており、最近も総額2818億円という大きな発行が報じられました。
最大の理由は「金利差」です。日本の低金利(約1パーセント前後)を利用して安く資金を調達し、そのお金を既存の日本の大手総合商社への追加投資や、新たな日本企業への投資に充てるという戦略が有力視されています。これは、低金利の円を借りて円安メリットを受けられる日本の資産に投資するという、非常に戦略的な動きだと考えられています。
個人投資家が注目すべき5つのポイント
私たち個人投資家は、この複雑な状況で何に注目して市場を見ていけば良いのでしょうか。今回の話を参考に、特に注意を払うべき点を5つに整理します。
- バリューエーションとその限界:バフェット指数やシラーPERのようなマクロな指標は市場の温度感を知るのに役立ちますが、一つの指標だけで判断せず、その限界を理解しておくことが重要です。
- 企業業績の実態と将来の見通し:決算発表では、単に予想を超えたかどうかだけでなく、将来の業績ガイダンスや利益率の動きなど、「数字の裏付け」と企業が語る「ストーリー」の両方を深く見極める必要があります。
- 金融政策と金利の関係:FRBの金融政策の見通しは株価評価と投資家心理に直接的な影響を与えます。また、日米間の金利差は、国境を超えた投資戦略にもつながるため、グローバルな視点を持つことが必要です。
- 市場のセンチメントとテーマの変化:VIX指数のような恐怖指数で市場参加者の心理状態を測り、株価の上昇が一部の大型株に集中しているのか(市場の裾野の広さ)を確認することで、市場の健康状態を見極めます。AIブームの中でも、チップから電力インフラや冷却技術など、次のボトルネックとなる分野へと投資のテーマが変わっていく可能性にも着目しましょう。
- 大口投資家の動向:バークシャーのような影響力の大きいプレイヤーの現金比率、売買動向、資金調達の動きは、彼らが市場をどう見ているかを探る貴重なヒントになります。
情報を鵜呑みにするのではなく、様々な角度から物事を捉え、背景や文脈を理解しようとすることが、変化の激しい市場で柔軟に対応し続けるための鍵となります。
