皆さん、こんにちは。通勤中や休憩時間にも、サクッと世界のマーケット情報を掴みたい方へ、今回は今、市場が静かながらも熱い視線を送っているテクノロジー分野から、量子コンピューター開発を手掛ける「Rigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)」の最新情報をお届けします。
先日発表された2025年第3四半期決算を中心に、同社の特徴、今後の戦略、そして私たちが投資を検討する上で知っておきたいリスクについても、ブログ記事風に掘り下げてまいります。
リゲッティの強みは「フルスタック」と「繋ぎの技術」
量子コンピューター関連企業として、IonQやD-Waveなど様々な企業が注目を集めていますが、リゲッティならではの大きな特徴は、そのフルスタックアプローチとマルチチップアーキテクチャ戦略にあります。
まず、フルスタックアプローチとは、量子コンピューターの心臓部であるチップの設計から、カリフォルニアにある自社の専用工場「Fab-1」での製造、そしてクラウドを通じた計算能力の提供サービスに至るまで、開発と提供の全工程を自社で一貫して行っている点です。この垂直統合型の体制により、開発サイクルの短縮や、独自の技術ノウハウを守りながら改良を進められるという大きな強みを持っています。技術方式としては、IBMやGoogleと同じ超伝導量子ビットを採用しています。
次に注目すべきが、マルチチップアーキテクチャ戦略です。これは、巨大な一枚のチップを作るのではなく、比較的小さな高性能の量子プロセッサーチップを複数製造し、それらを高密度に接続していく「チップレット」と呼ばれるアプローチです。例えるなら、レゴブロックのように高性能な部品を効率よくつなぎ合わせ、大規模で高性能な量子コンピューターを実現しようという、スケーラビリティ(規模拡大)における独自戦略と言えます。いかに効率よく、かつ正確に多数の量子ビットを「繋ぐ」か。これが同社の技術的挑戦の核となっています。
決算概況:売上は伸び悩むも、損失は予想より縮小
それでは、今回の第3四半期決算を詳しく見ていきましょう。
1. 売上高と損失の状況
売上高は190万ドルで、市場予想の約217万ドルには届かず、前年同期比で18.1パーセントの減少となりました。量子コンピューター市場自体が黎明期にあり、売上が契約ベースで大きく変動する側面があるとはいえ、売上成長という点では、まだ課題が残る結果となりました。
しかし、利益面では改善が見られています。一時的な特殊要因などを除いたノンGAAP(調整後)の一株あたり利益は、マイナス0.03ドルでした。これは、市場予想のマイナス0.05ドルを上回る良い結果であり、前年同期のマイナス0.07ドルと比べても赤字幅が縮小しています。この改善は、コスト管理や効率化が進んだ成果と評価できるでしょう。
2. GAAP純損失の「マジック」
ここで注意したいのが、米国の正式な会計基準に基づいたGAAP純損失です。こちらはなんと2億100万ドルの大きな赤字となっており、前年同期の1480万ドルから大幅に拡大しています。
この大きな赤字額は、デリバティブワラント負債の構成価変動という会計上の評価損益が主な原因です。これは、実際の会社の運営で現金が大量に出ていったわけではなく、主に株価の変動に応じて計算される帳簿上の損失、いわば「会計ルール上の数字のマジック」のようなものです。したがって、事業そのものの収益性やキャッシュフローを見るには、ノンGAAPの数字の方が実態に近いと言えます。実際のビジネスの赤字は縮小傾向にある、という点を理解しておくことが重要です。
3. 潤沢な手元資金
研究開発に多額の資金が必要なリゲッティですが、財務的な体力は非常に心強い状況です。以前発行した新株予約権(ワラント)の行使による資金調達もあり、2025年11月6日時点で手元資金は約6億ドルに達しています。これは、当面の研究開発や事業運営を進めていく上での大きな安心材料であり、強力な武器となります。
事業の進捗と野心的な技術ロードマップ
潤沢な資金を背景に、技術開発と商業面での進捗も着実に進められています。
1. 技術ロードマップの進展
技術ロードマップは計画通りに進んでおり、今年の年末(2025年末)までに、100量子ビット以上のシステムを、計算の正確さを示す忠実度99.5パーセントで提供する計画が順調とのことです。忠実度の向上は、実用的な量子コンピューター実現の鍵を握ります。さらに、2026年末には150量子ビット以上(忠実度99.7パーセント)、そして2027年末にはなんと1000量子ビット以上(忠実度99.8パーセント)のシステムを目指すという、かなり野心的な計画も示されました。
2. 商業面での具体的な受注
商業面では、9量子ビットの小型システム合計で約570万ドルを受注したと発表されました。顧客はアジアの技術製造企業とカリフォルニアのAIスタートアップで、納入は来年2026年の上半期を予定しています。特に興味深いのは、これがクラウド経由の利用ではなく、顧客の施設内に物理的なマシンを設置するオンプレミス型の販売である点です。手元でじっくりと研究開発をしたいという具体的なニーズが生まれていることが分かります。
3. 政府・アカデミア・業界との連携強化
- 政府関連: 米空軍研究所(AFRL)から3年間で総額580万ドルの契約を獲得し、量子インターネットの実現に向けた基盤技術を開発します。また、国防高等研究計画局(DARPA)との量子コンピューター性能評価プロジェクト(QBI)についても、選定のチャンスはまだ残っていると、会社側は楽観的な見方を示しています。
- パートナーシップ: 半導体大手のNVIDIAが発表した、スーパーコンピューターと量子コンピューターをつなぐ新しい技術基盤「NVQ」をリゲッティもサポートすることを表明しました。AI計算と量子計算を組み合わせるハイブリッドアプローチは、今後の量子コンピューティングの主流になる可能性があり、この連携は重要です。
- エコシステム構築: モンタナ州立大学(MSU)との連携を強化し、研究や人材育成で協力します。また、インドの政府系研究機関であるC-DACとの間でもハイブリッド量子コンピューティングシステムの共同開発に関する覚書(MOU)を締結し、巨大市場への足がかりを築いています。
競争環境と注意すべきニュース
量子コンピューター市場では、リゲッティ以外にも有力なプレイヤーが激しい競争を繰り広げています。
1. ライバル企業の動向
- IonQ(IONQ): 第3四半期決算は売上高・EPSともに市場予想を上回り、売上高は前年同期比で3倍以上と目覚ましい成長を見せています。一方で、初期からの大株主だったAmazonが保有株を全て売却したとの報道もあり、市場の一部に懸念も広がりました。
- D-Wave Quantum(DWAVE): 売上高と調整後EPSは市場予想を上回り、売上高も前年同期比で2倍と好調です。しかし、リゲッティと同様に、会計上のワラントの影響でGAAPベースの赤字は大幅に拡大しています。受発注(ブッキングス)は過去最高を記録するなど、ビジネス自体は好調です。
各社が異なる技術アプローチ(IonQはイオントラップ、D-Waveは量子アニーリング、リゲッティは超伝導)の強みを生かし、開発と商業化を競い合っている状況です。
2. 米国政府による出資報道の顛末
10月に、アメリカ政府が国家安全保障上の観点から、リゲッティを含む複数の量子コンピューター企業に株式を直接取得する方向で協議している、という報道がありました。このニュースを受けて、関連銘柄の株価は一時的に大きく上昇し、市場の期待の高さが示されました。
しかし、その後、米国の財務省関係者がメディアに対して「現在どの企業とも株式取得に関する交渉は行っていない」と明確に否定するコメントを出しました。報道の真偽は定かではありませんが、この一件は、量子コンピューター分野への市場の期待の高さと、国家戦略レベルでこの技術が注目されていることを改めて示した出来事となりました。
まとめ:夢の大きさとリスクの大きさを理解する
リゲッティのような銘柄は、まさにハイリスク・ハイリターンの典型です。投資を検討する際には、その夢の大きさと同時に、現実的なリスクを十分に理解しておく必要があります。
【投資で特に注意すべきリスク】
- 商業化の不確実性: 量子コンピューターが広く使われ、大きな収益を生むようになるまでには、数年どころか10年、20年といった単位の長い時間がかかる可能性があります。すぐに大きな利益が出るわけではない、という長期的な視点が必須です。
- 継続的な赤字と資金希薄化リスク: ノンGAAPで赤字幅は縮小したとはいえ、現状は赤字が継続しています。研究開発に膨大な先行投資が必要なため、将来、追加の資金調達のために新株発行が行われ、既存株主の一株あたりの価値が薄まってしまう「希薄化」のリスクも考慮に入れる必要があります。
- 巨大テック企業との競争: IonQやD-Waveといった専業スタートアップだけでなく、IBM、Google、Microsoftといった、はるかに巨大な資金力と研究開発力を持つテック企業もこの分野に全力で取り組んでいます。この熾烈な競争にリゲッティが勝ち残れる保証はどこにもありません。
- 高い株価評価(バリュエーション): 将来への大きな期待が折り込まれているため、現在の売上規模や利益状況から見ると、株価は極めて割高な水準にあります。そのため、市場のセンチメントやニュース一つで株価が大きく動く、激しい変動性(ボラティリティ)も特徴です。
最後に、量子コンピューターの真の性能を決めるのは、単純な量子ビットの数(何量子ビット達成)を増やすこと以上に、それらをいかに効率よく、そして正確に「繋ぐ」か、つまり接続技術(インターコネクト)の質にあるのかもしれません。リゲッティのマルチチップ戦略は、まさにこの「繋ぎ方の革新」を目指す挑戦です。
夢の大きい量子コンピューター分野ですが、投資するなら、これらのリスクを十分に理解した上で、あくまで自己責任で余裕資金の一部で行うべきでしょう。
今回の情報が、皆さんの投資判断の一助となれば幸いです。次もまた、耳寄りな情報をお届けしますので、楽しみにしていてください。
